第20章 kagero
リップクリームのことを謝ると、急にやった自分が悪かったから気にするな…と言って、あの人は自分の教室に戻って行った。
頭の中があの人のことでいっぱいになって、午後の授業の内容はほとんど覚えていない。
こんなんで大丈夫なのかな…俺。
翌日の昼休みも、あの人は俺のクラスに来た。
いつものようにイヤホンの片方を耳にはめて、一緒に音楽を聴く。
今日は背中合わせで座ってるから、お互いの顔が見えない。
最初はホッとしたけど…背中が密着してるから気が気じゃない。
背中が熱い。
それに便乗するかのように、俺の胸が騒ぎ出す。
いったいどうしろというんだよ…自分の中に問いかける。
先が見えるようで見えないモヤモヤは続いている。
そんなことを考えていると、規則正しい呼吸をしているのが背中越しに伝わってきた。
時々ズルッと体勢がずれて…
あれ…っ?もしかして…寝てる?
「あの…。」
声をかけてみたけど返事がない。
トントン…
肩を叩いてみたけど反応がない。
周りを見てみると、クスクス笑ってる人やらシーって人差し指を口元にあててる人もいる。
やっぱり寝てるのか。
どんな夢をみてるんだろう。
それにしても、何なんだ。この人は。
昼休みになると音楽を聴きに来て、特に話もしないで帰って行く。
今日なんて寝てるし。
それでも、伝わってくる温もりが心地いい。
ずっとこの時間が続けば…
キーンコーン…カーンコーン…
俺の中の熱が上がるのを警告してるように、チャイムが鳴った。
背中越しにビクッと動いたあなた。
「んにゃっ?」
「何なんですか、んにゃって。」
「おいら、寝てた?」
「寝てましたよ。」
「あ~っ。やっちゃったな…。」
「何をですか?」
「まぁ…色々とね。」
俺はまた翻弄されるんだ。