第20章 kagero
「ねぇ、そんなに見つめてどうしたの?」
急に声がかかりハッとした。
見とれててボーッとしてたみたいだ。
「いつ…目を開けたんですか?」
「ん~っ30秒くらい前かな…ふふふっ。」
ニヤニヤしてるし…。
唇見てたの、この人にしっかり見られてたんじゃん…。
「何か気になった?」
あなたのことが、なんて言えない…
心と身体に籠った熱がゆらゆらしてるんだ。
「リップ塗りすぎです。」
「いる?」
そう言いながら顔を近づけてきた。
うそ…だろ…?
まさか…?
でもここ、教室だし。
他に何人かいるし…。
ドギマギしてたら、唇に何かあたった。
でも目の前のこの人とは…重なってない。
「あの…なにしてるんですか?」
「リップ。塗ってあげようかなって。」
俺の上唇にリップクリームがあてられていた。
「いいです、塗らなくて。」
「そっかぁ。ちょうど持ってたのに。」
唇を尖らせながら、リップクリームのキャップをはめてる。
…それならさ、リップクリームじゃなくてさ、思いきってその尖らせてるものをあててよ…紛らわしいことしないでよ…この、バカ…。
なんて、この人は本当にリップクリームを塗ってあげようとしただけなのかも…教室だし…
それなら…やっぱり、紛らわしいことはしないで…バカ…。
いや…バカは俺だな。
そのまま塗ってもらってたってよかったじゃないか。
キス、されるのかな…って、勝手に思ったのは俺じゃないか。
悪気がなかったのなら…イヤな思いをさせちゃったかもしれない。
今日もまた…俺、翻弄されてる。