第20章 kagero
あの人はどうしてここに来たのだろう…。
昨日のことが頭から離れないまま、昼休みになってしまった。
お弁当を食べ終わり、いつものようにイヤホンを耳にはめようとした時だった。
「何、聴くの?」
突然現れたあなたは、前の席の椅子の背側に跨がり俺のほうを向いて座った。
「おいらにもまた聴かせてよ。」
「へっ?」
あなたは昨日と同じく俺の手からイヤホンの片方を取り、耳にはめた。
早く早くと急かすように目を輝かせている。
昨日も感じたけど、今まではもっと落ち着いた人かと思ってた。
だけど意外と子どもっぽくて、なんか可愛い。
俺が曲をかけると机に肘をついてきたから、自然と距離が近く…
わわっ!
思ったより近くてびっくりした。
また昨日と同じく不意打ちだよ…。
俺を一瞬見てふふっと笑い、その後は気にする様子もなく音楽を聴いている。
こっちはこんなにドキドキしてるのに…。
昨日は隣り合わせだったけど、今日は正面にいる。
耳から聞こえる音楽よりも、体内から感じる心臓の鼓動のが大きいかもしれない…。
こんな至近距離で、あと何分もつかな…俺。
目の前のこの人は時々歌を口ずさんでる。
聴いたことがあるんだろうな…。
「ねぇ、ずっとこの曲を流したままにしてよ。ダメ?」
「いいですよ。でも昨日と同じ曲ですけど…。」
「かまわないよ。ありがと。」
あなたはふにゃんと笑った。
それ、女子より可愛いよ。
目を閉じて聴いてるあなた。
その顔がとても綺麗で、吸い込まれそうだ。
睫毛長いな。
鼻筋がスーっとしてるな。
薄い唇…ははっ、リップクリーム塗りすぎだよ、光ってるじゃん。
キスしたら相手についちゃうよ…。
相手…いるのかな。