第20章 kagero
うわっやばい…。
近いよ、近いよ、近いよ、近いよ、近いよ、
「ん?どうした?」
「近っ…あっ、だいじょうぶです。」
つい、声に出ちゃったよ。
「んふふっ。片言になってるし。大丈夫って感じじゃないけど?」
「あっ、いえ…。お気にせずに…。」
「ふふっ、そっか。」
1つのイヤホンを二人で片耳ずつ入れてるから、ある程度距離が近くなるのは仕方がないけど…でもこれは近すぎる…。
この人が俺のほうに頭を傾けてるせいだ。
それにしても、どうしてこの人がここにいるんだろう…。
クラスどころか学年も違うのに…。
「これさ。」
「はい?」
「いい曲だね。」
「そうなんですよ。」
イヤホンからは、俺のお気に入りの曲が流れている。
それは5人組トップアイドルのアルバムの曲。
もう何度目のリピートになるだろうか。
キーンコーン…カーンコーン…
イヤホンをしていない左耳から、チャイムが聞こえた。
「ありがと。また聴かせてね。」
「はい。…って、また…?」
「んふふっ。“はい”って言ってくれたから、約束ゲットしちゃったからね。」
「約束ゲットって…。」
この状況の何もかもに、まだついていけてない俺。
「はい、これ。じゃ、また明日ね。」
そう言ってあなたは教室を出て行った。
俺の手には、さっきまであの人がつけていたイヤホンの“L”と書かれたほうがある。
ちゃんと拭いて…まぁ指でガシガシしてたけど、最低限のマナーができる人でちょっと安心した。
自分の右耳に入れていた“R”と書かれたほうも外し、緩くまとめてポケットの中にしまった。