第104章 シュワシュワ
「櫻井」
「はい」
「顔…見せて?」
右を向くと、櫻井の耳はやっぱり赤く染まっていて。
「今はちょっとムリです」
その言葉が照れ隠しであることもすぐにわかって。
「どうして?」
「どうしてもです」
どうしてもって言われたけど、あともうひと押しなんじゃないかって思えて。
「どうしてもダメ?」
「じゃあ…名前で呼んでくれますか?」
そう言われたのにはドキッとしたけど。
「櫻井」
「…そうじゃなくて」
ボソボソっと聞こえてきた返事に、腕の中のショウがモゾモゾと動く。
俺はショウを左手に抱き直し、右手は芝生に這わせながら櫻井にたどり着いた。
そっと握った櫻井の手は、ちょっと震えている。
俺の手も震えているけど、初めてなんだから仕方がない。
「俺は顔を見て名前を呼びたいんだけど、いいかな」
「えっ、と…」
戸惑いを含む声色に、愛しさが増した。
少しずつ櫻井が体の向きを変える気配を感じる。
顔を覗けるくらいにだろう、なんて思っていたんだけど…
体ごと向きを変えてきたから、俺は固まってしまった。
思っていたよりも櫻井との距離が近くて、胸がバクバクしている。
そんな俺のことを知ってか知らずか、どうやらショウは眠ってしまったらしい。
「ふふっ。可愛いですね」
櫻井の視線がショウに釘付けになる前に。
「翔…くん」
俺は初めてキミのことを下の名前で呼んだ。