第104章 シュワシュワ
「俺、汗臭くないか?」
櫻井に聞いてみる。
「いえ、大丈夫ですよ」
「それならいいけど…」
ふぅ…。
なんでかな。
何か話さなきゃって思えば思うほど、話題が浮かんでこないなんて。
「背…伸びたよね」
櫻井と出会った日のことが思い浮かぶ。
俺たちが通う高校は、新入生への学校案内を2年生が行っている。
新入生5人を連れて、あらかじめ決められている順序で案内をしていく。
櫻井は、俺が案内をしていたグループの中にいた。
キラッキラの大きな瞳と、幼くも綺麗な顔立ち。
小柄だった彼は他の子たちに埋もれがちだったけど、誰よりも興味深そうにしていた。
俺にとっては、それがすごく嬉しかった。
代々受け継がれていることとはいえ、俺にとってはもちろん初めての経験になるわけで…前日は緊張してほとんど眠ることができなかったから。
そして。
その日の帰りに昇降口で靴に履き替えていたら
“大野さん、今日はありがとうございました”
って言いに来てくれてさ。
ドキッとした。
名前なんて、5人と対面した時に名乗っただけだったし。
でも俺も覚えてた。
“櫻井くんだったよね?”
そう言った時の、キミのビックリした顔は忘れられない。
それから俺たちは姿を見かけると、一言二言会話をする仲になっていったんだ。
「僕は…大野先輩の顔を間近で見れるようになって嬉しいです」
櫻井の言葉に、心拍数が上がっていくのを感じた。