第103章 LOVE LOVE LOVE
(Sサイド)
とにかく必死だった。
“寝癖を直しに”って口実は、咄嗟に思いついたことだったから。
鏡のある所…
頭に浮かぶのは男子トイレしかなかった。
幸いだったのは呼び出しがあったことで、後ろのドアにみんなの注目がいっていたこと。
前のドアの方は比較的人が少なくなっていたから、思っていたよりも早く教室を出ることができた。
ただ、廊下はいつもより人が多かった。
目的の場所は、教室3つ越した先にある。
「ごめん、ちょっと通らせて」
ワイワイ騒がしい中を、智くんの手を引きながら走り抜けていく。
流石にそんな僕たちに声をかけてくる人はいなくて。
いや、もしかしたらいたのかもしれないけど、気にする余裕なんてなかった。
そうして教室と廊下の脱出に成功した僕たちは、ゴールの男子トイレにたどり着いた。
高校2年生。
ピチピチの17歳。
大好きな人の手を引き、連れてきた場所は男子トイレ。
薄暗いし、場所のことだけ考えるとロマンチックなんかじゃないけど…
他の人に智くんをとられないようにって、自分なりに頑張ったなって思う。
「しょーくん」
達成感で満ちていた僕に、智くんから声がかかる。
「ん?」
「あのさ…手…」
手?
手…
手!
そうだった。
智くんの手首、つかんだままだった。
「ご、ごめんっ」
謝りながらその手を離すと
「いや、いいんだっ」
そしたら逆に…
その僕の手を智くんがつかんだ。