第2章 家出する一個下の弟
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………あー…まずったな。
目の前でため息をつく一個上の姉の姿に俺はそう思った。
いつもはキルと呼ぶこの姉が、俺のことをキルアと呼んだ時あまりいい印象がない。歳が近い俺のことをいつも可愛がってくれるこの姉は、基本はおおらかで無害な性格だ。だが、俺がミルキのことをブタくんと呼ぶのが昔からあまり好きではないようで、そのたびに注意される。
「…なるべく軽く切り出そうと思ってたんだけどな」
ボソッと呟くと、姉はキョトンとした顔で俺を見た。
俺の一つ上の姉、アルミ・ゾルディックは、ゾルディック家では珍しく殺しの仕事を請け負ったことの無い人物だ。理由は様々。女だからとか、危険な場所に行かせたくないからとか、殺しをする必要がないからとか。だが一番の理由は、向かないからだろう。俺もそう思う。辛かった時、うまくいかなかった時、思い通りにいかなかった時、悲しい時、いつもこの姉がそばにいた。この人のスラリとした温かい手が触れる度、ホッとする気分になるのを覚えている。その手が血に染まるなんて想像できないことだった。
そんな優しい姉は、家族からも好かれている。俺から見ても過保護だと思うくらいには好かれている。
だから俺はこの10年間、一度もこの姉が外に出たところを見たことがない。外と言ってもこの家のという意味でだ。
別にだからと言ってどうということは無いのだ。だが、笑って俺らを送り出してくれるこの姉が不意に
「…いいなぁ」
なんて言うものだから、一瞬ある考えが過ぎっただけだ。
もしかしたらこの姉は、一生外に出ることはないのではないか、と。
別に姉のためとかそういうわけじゃ無い。ただの暇つぶし。んでもって、暇つぶしついでにこの姉と外の世界を気ままに見て回るのも悪くないなと思っただけだ。