第2章 家出する一個下の弟
「アル姉。俺、家出る」
不意に一個下の弟が零した言葉は私の耳に入り、私は首を傾げた。長期任務に出ていて久しぶりに会ったこの弟は、珍しくムスッとした表情で玩具を弄っていた。
「家継のやめるの?」
私の言葉に一個下の弟…キルアは手に持った玩具を壊しながら、
「分かんね。別に仕事が嫌ってわけじゃないんだけどさ。このままただ言われた通りの人生を歩んでいくのもアレだなって思っただけ」
という。
…なるほど。まだまだ子供だと思っていた弟も、そんなことを考える歳になったのかと思わず感慨深くなる。
「んー。社会見学ってことでならいいんじゃないかな? キルがそうしたいのなら、父様も母様も反対しないと思う……」
「はぁ? あの人たちが反対しないわけないじゃん」
そんなことないと言いかけて私は口を閉じた。キルはゾルディック家一の才能を持った後継者。父様…というより母様が、幼い頃から溺愛し、育ててきた。そんな母様がキルが一時的とはいえ家を出ることを許してくれるだろうか……。
「うん、ごめん。ないね」
だろっとばかりに肩をすくめるキル。玩具はもう既に半壊状態だ。私は苦笑いをした。
「だから俺、今日家を出る」
さらっとそんなことを言うキルに私は吹き出しそうになった。思い立ったら吉日とはよく言ったものだ。
「今日!? それはあまりにも無謀というか、考えなしというか、急すぎじゃない!?」
「今日しかないんだよ!! 今日は任務が立て込んでる日で、家にいるのはブタくんとお袋くらいだし」
「ミル兄をそんなふうに呼ばないのキルア」
私はため息をつきながらこの弟を窘めた。