第7章 memories
高校一年生の秋。
その日は土砂降りだった。
でも学校は休みにならなくて
みんなで文句言ってたっけ。
研磨は学校を休んでたなー。
…研磨らしい。
あまりにも天気が悪くて
電車で来てる人もいるからってことで
どこの部活もその日は無しになった。
帰る時刻になって私は昇降口でクロを待ってた。
お気に入りの白地にピンクのレース柄の傘を持って
「なあ、椿。傘入れてくんねえか?」
「え?なんで?傘持ってきたでしょ。」
「実は…この有様で……。」
そう言って見せたビニール傘は強風のおかげで
無惨な姿になっていた。
「はいはい。どうそー。」
「おう、サンキュー。」
そう言ってヒョイッと傘を持ってくれたクロに
いつもの癖で
「いいよ!私が持つ!」
「…いや、俺が入らねえだろ。」
そう言って笑いだすクロ。
私もね、あの時は流石に
言った瞬間
いや、身長差的に無理でしょって思った。
女の子の傘ってさ少し小さくない?
クロはビニールだったけど、
他の男子の傘を見るとトトロの傘みたいだなー。って思うの。
その傘だったら
わたしとクロが入ってもギリギリ大丈夫かなってなるけど
私の傘じゃどうしても2人はきついわけで…
それでも私が雨に濡れなかったのは
クロが傘をこっちに寄せてくれたから。
さりげなく車道側を歩いてくれたりするところも
流石だなーって思う。
「ねえ、クロの肩濡れてるから私の方気にしなくていいよ?」
「ああ、気にすんな。」
まるであたりまえって感じで言ってくれた
クロの制服をちょんちょんっと引っ張って
「ありがと!」
って言った。女の子扱いしてくれたのが嬉しかったから。
「ん。どーいたしまして。」
クロはそう言って車道の方を向いた。
でも、気付いちゃった。
クロの耳が赤くなってたことに。
よく見ると頬も赤い。
照れてるのかなって思って
ちょっとだけ勘違いをした。
もしかしたら私のこと…って。
女の子扱いも
そうやって照れるとかも
もしかしたらって。
その考えはすぐに捨てた。
側から見れば何でもないことかも知れないって思ったから。