第7章 memories
椿はそれ以上何も言わず
大人しく教室を出てった。
怖がらせちまったかもしれねえ。
今の怒りに比べれば小さな小さな蟻程度の後悔。
「何の用ですか。」
谷原は怒っていた。
声こそ小さいが雰囲気で分かるほどに怒っていた。
まあ、当たり前だろう。
好きな女へのせっかくの告白を邪魔されたんだから。
「…俺もあいつが好きだから、イラついて邪魔せずにはいられなかった。」
素直に答えた。
今更嘘ついたって仕方がねえしな。
「でもよお、後は椿の返事だけだろ。最後まで一応待ってやったんだ。感謝の一言ぐらい欲しいもんだねえ。」
「……感謝なんてするわけないじゃないですか。いい加減に怒りますよ。」
「へえ〜怒ったらどうすんの。」
「椿さんを貴方から奪います。」
「…上等だ。渡さねえよ。」
その一言を最後に俺らの睨み合いは終わった。
いつも通り昇降口に椿と研磨はいた。
ただ、いつもと違ったのは椿の表情。
明らかに怒ってる顔だ。
そりゃそうだよな。
あれだけ好きだって相談してた奴からの告白を
その相談相手に邪魔されちゃあ怒るわけだ。
でも、俺は自分の行動に後悔はない。
あるとすればそれは1つだけ。
椿の怒ったような、悲しいような表情を見ちまったこと。
制服をちょいちょいと引っ張られてそっちを向くと
「黒…椿と何かあったの?」
と気まずそうな顔をした研磨がいた。
「ん?…ああ。」
それだけ言うと、察してくれたらしく
もうそれ以上は聞いてこなかった。
研磨はこの気まずい雰囲気を何とかしようとしてくれたんだろう。
「俺…アップルパイ食べたい。今度作ってきて。」
研磨が椿に向かってそういうと、
椿は
「あ、そうだね…今度作るね!」
分かりやすいくらい元気がなかった。
当たり前と言えば当たり前。
ピコン。
研磨からlineがきた。
(黒と椿はゆっくり話さなきゃだめ。)
「俺、買い物頼まれてるから。あっち行ってくる。バイバイ。」