第7章 memories
谷原裕太。
後から椿に苗字も聞いた。
へー谷原ね。
その名前どっかで聞いたことあると思ったら
どうやら美術部の部長らしい。
いろんなコンテストで優勝してるみてぇだから
それで聞き覚えがあったのかもな。
今、俺は初めて谷原の絵を見ている。
大きなコンテストで優勝した作品だから学校に当分飾るらしい。
綺麗だった。
湖の絵。
遠ければ遠くなるほど
色鮮やかに変わっていく景色。
だから近くにある木々は今にも枯れそうに暗い色
でも湖の向こう側の木々は蕾をつけてとても綺麗だ。
でもただの模写のような作品じゃなくて
谷原自身を表してるような気がした。
その作品を見て
凄く嫌な予感がした。
ただ単に谷原は椿と仲良くしてるわけじゃなかった。
それが伝わってきた。
湖の向こう側に椿にそっくりな女が立ってたから。
思い過ごしならそれでいい。
でも、今の俺は焦る気持ちでいっぱいだった。
もしも谷原が本気で椿に惚れてたらどうする。
今の椿はうんざりするほど谷原に惚れてんのに…
俺は教室に椿を迎えに行った。
いつもなら昇降口で待っててもいいのにと思うけど
無性に会いたかった。
「あ、あの…
好きです!良かったら…付き合ってくださぃ。」
嘘だろおい。
嫌な予感ってこんなに当たるもんかね。
教室の前に着くとそこでは
まさに谷原が椿に告白しているところだった。
今にも消え入りそうな声で
自信なさげに。
今お前が椿に告ったらオッケーしちまうじゃねえかよ。
チッ。
でかい舌打ちに比例して俺のイライラは最高潮に達していた。
ガラガラガラッ
「なあ、お取り込み中悪いけどコイツ返してくんねえ?」
「ちょっ、クロ!今は!!」
「うるせえ。準備できてんだろ。先廊下歩いてろ。」
いつもより低い声で
まるで敵に威嚇するかのように、
俺は谷原だけをじっと見つめた。