第2章 ・佐久早の不機嫌、義妹の受難
「という事があった。」
「馬鹿だろお前。」
放課後の白鳥沢学園高校男子バレーボール部の部室にて淡々と図書室での事を報告する主将に対し瀬見英太はバッサリと言った。
「完全に文緒が恥ずかしい事になってるじゃねーかっ。」
「不本意な事を言われたから訂正をしたまでだ。」
「訂正できねーわどー考えてもお前のは溺愛だっつのとにかく人目がある所で文緒を持ち上げんなっ。」
一息で突っ込みを入れる瀬見、しばしば若利よりも文緒の兄らしいと言われる今日此の頃の立場がそうさせるのか。
「届かないというからそうしたのだが。」
「毎回言ってるけどちっさい子じゃないんだから。」
ため息をつきながら言うのは大平獅音、横では天童覚がアヒャヒャヒャと腹を抱えて笑っている。
「やー毎日毎日文緒ちゃん絡みではネタに事欠かないねぇ若利君。」
「俺は意図的にやっている訳じゃない。」
「だから問題なんです。」
白布賢二郎が遠慮なく突っ込んでも若利は首を傾げるばかりだ。
「もういいんじゃないか賢二郎。」
首を傾げる主将に対して流石にヒクヒクしている白布に川西太一が呟く。
「もうユースの合宿とローカル番組でシスコン公言しちゃってるから校内で図書委員に溺愛って言われた所で今更でしょ。ね、山形さん。」
「いきなり俺に振るな太一、頭痛くなってくるわ。」
山形隼人がやれやれと首を左右に振った所で牛島文緒と同じクラスである五色工が牛島さんっと声を上げた。
「別に文緒を持ち上げなくても牛島さんが本を取ってあげたら良かったんじゃないですかっ。」
一同は一瞬シンとなった。
「もっともな話だ。何故気がつかなかったのか。」
「お前もしかしてさ、」
フムと考え込む若利に瀬見が言った。
「犬猫みたいに口実つけてでも文緒に触ろうとしてね、無意識に。」
「愛らしいのは確かだが文緒を愛玩動物とは思っていない。」
「惚気けろって話じゃねーよっ。」
この部室での話は後程天童経由で文緒にも伝わり、文緒はこの日の夜帰宅した義兄に少々文句を言う事になる。