第9章 ・若利のやってみた
「兄様これは。」
「音楽を再生してくれ。天童は撮影で忙しい。」
「このボタンをタップしたら良いのですか。」
「ああ。あそこから音が出る。」
「あら、スタイリッシュなスピーカーですね。」
「無線で繋がっている、何と言ったか。」
「Bluetooth(ブルートゥース)だよ、若利クン。」
「最近は便利なものだ。」
「そうですね、兄様。」
「はいはい夫婦の会話は後にして、若利クンは位置についてー。」
「ああ。」
天童に促されて若利はまたノシノシと踊っていた位置に戻った。
そういう訳で白鳥沢学園高校のその体育館ではしばらく不思議な光景が展開されていた。
身長190cm近い巨体の少年が踊っている。
そこから離れた所で実年齢のよくわからない少女がちょこんと正座をし、持たされたスマホを操作して音楽を再生している。
更に別の位置からどことなく得体の知れない雰囲気を持った少年がスマホで踊っている少年を撮影している。
これらを上から見たと想像するとなかなかの状況である。
「どうだ、天童。」
「イイヨイイヨ、めっちゃいい感じー。ほらこれ。」
「ん。」
「兄様、軽快ですね。」
「何度もやったからな。」
「どうする、これで決まりにする。」
目をグリグリさせて見つめる天童に対し若利はいや、と答えた。
「後もう一度だけ頼む。」
「すっかりハマったねぇ、若利クン。」
「せっかくの機会だ、どうせならちゃんとやりたい。」
「兄様らしいです。」
「天童、電話の電池は大丈夫か。」
「バッテリー用意済、SDカードも容量あり、まかしときなって。」
「兄様のスマホもご心配なく、いざとなれば私のバッテリーを使います。スピーカーもまだいけますよ。」
「そうか。」
若利は満足そうに頷いてまたノシノシと位置に戻る。
「オッケー、じゃあラストいくよー。文緒ちゃん、ミュージックスタートぉぉっ。」
「はい。」