第9章 ・若利のやってみた
文緒がスマホの画面をタップするとワイヤレスのスピーカーから音楽が流れ若利がスムーズに踊りだした。
天童がニヤニヤしながらスマホで撮影している。
文緒はやはりちょこんと正座したまま義兄が踊っている姿を微笑んで眺めている。義兄の表情はいつもと変わっているように見えなかったけど楽しそうだと文緒は思った。
基本的にバレーボール以外の事にはあまり興味を持たないようだが意外とハマり出すと早いのかもしれない。
しばらくそうしていて4分弱の曲がそろそろ終わりを迎えようとしていた。
文緒はタイミングよく止められるようにと義兄から預かったスマホの画面を確認している。もう数十秒で曲が終わる。使っていた曲はフェードアウトして終了するのではなくバシッと音が止まるタイプのものだった。
曲が終わって義兄がビシッと踊りの最後を決める。すぐさま文緒も画面をタップして音楽再生を止めた。
やれやれこれで終わったと文緒は思って立ち上がる。この後妙なことになるとは全く思っていない。
踊り終わった義兄はやはりこちらにノシノシやってきた。文緒はスマホを返そうと義兄に向かってぴっと両手を差し出した。その姿がまるで大人に一緒に遊んでと玩具を差し出す子供に見える点は置いておこう。
そこまではいい。そこまでは良かった。
次の瞬間文緒は両足が浮き、視界が急にいつもより何十cmも高くなった事に声もなく驚いた。
一体何を思ったのか義兄の若利が文緒を抱き上げてしまっていた。
更に呆れたことに一部始終を見ていた天童はカメラを止めていなかった。
誰かがちゃんと見ていたらその時の天童が大変ワクワクテカテカした表情をしていたのをしっかりと捉えていただろう。