第9章 ・若利のやってみた
「ああ何てこと。」
文緒はこっそりとため息をついた。
その目には義兄の若利が真面目くさった顔で音楽に乗ってどうやら踊っているらしい姿が入っていた。
しばらく文緒はそのまま入り口の側で待っていた。やがて聞こえていた音楽が止まったので義兄が踊ってみるなど一体何事かと思い切って入り口の扉をぐいと開く。
「失礼します。」
「文緒か。」
「ヤッホー。」
義兄の声と共に響いた声に文緒は再びため息をついた。
「こんにちは。なるほど天童さんでしたか、事が何となくわかりました。」
「ちょっとちょっとぉ、いきなりご挨拶ダネ。」
「そうおっしゃいますが兄様が1人で突然踊ってみるなどありませんし、そうなるとどなたかが焚き付けたとしか。」
「そこでソッコー俺ぇ。」
「申し訳ありませんが他に思い当たる節がなくて。」
「ちょっと若利くん、嫁ちゃんが失礼なんだけど。」
「お前が誘ったのは事実だろう、天童。それとまだ嫁じゃない。」
「兄様、嫁云々はいい加減になさってくださいな。」
「へぇへぇさよで。」
キエッと吐き捨てる天童だがまぁそれは置いといてとすぐ気を取り直す。
「文緒ちゃんだってさぁ若利クンがバレー以外の事試すのありって思わない。」
「色々挑戦するのはよいとは思うのですがその、天童さんが関係されると大抵ろくな事が」
「このロリマジ失礼っ。」
「私はドローレスではありません。」
「腹立つーっ。」
「文緒、売られた喧嘩をすぐ買う傾向は良くない。」
「ちょっと若利クン、俺が喧嘩売った事になるワケ。」
「愛らしい事に異論はないが文緒にロリータは禁句だ。」
「さりげに惚気(のろけ)を混ぜるスタイルかよ。」
ブツブツ言う天童であるがこれ以上はやめておこうと判断したらしい。それよりさぁとパンッと両手を叩いた。
「若利クン、もっぺんもっぺーん。」
「ああ。」
当たり前のように頷く義兄に文緒は本当に何てことと首を横に振る。そんな義妹の様子を知ってか知らずか若利はノシノシと一旦移動し、程なく戻ってくると自分のスマホを文緒に持たせた。