第8章 ・不思議な8月13日
という訳でとある街中を実年齢のよくわからない少女がポテポテと歩いていた。全国的有名人の義兄のおかげでしばしば他校の知らない奴に声をかけられるようになったりどういう訳か妙な奴にちょっかいをかけられたりする今日この頃だが1人で電車に乗ってここまで来た今のところは特に問題が起きていない。
義妹を溺愛している若利が知ったら黙っていなかったろうけど。
ともかく日傘をさしてポテポテ歩く文緒はとうとうショッピングモールにたどり着いた。中に入ると夏休みのせいか人が多い。親子連れは勿論おそらく同じ年頃と思われる若い衆が複数行き交っているのもたくさん見える。見える範囲では1人でいるのは大人ばかり、文緒と同じ年頃で1人でウロウロしているのはいない。もしかしなくても私変わってるのかなと思いつつもここで迷っている場合ではないと文緒は辺りを見回して手近なエスカレーターに乗った。
エスカレーターに乗って降りた先のフロアで文緒は案内板を確認する。目当てはスポーツ用品店、歩いているうちに見つかるとは思うが慣れない上に広い場所であまり闇雲に歩き回りたくない。こちらは少々急ぎなのだ。店の場所を確認して最短ルートで向かった時である。
「あっ。」
店の入口付近で野郎の声がした。
「あら。」
文緒も思わず返した。何と条善寺高校の照島遊児とその仲間達である。烏野の清水の件で一度やりあっている間柄、その後は見かけたら向こうからスルーという状況が続いている訳だが今回はお互い距離が近い。文緒は勿論照島もどうしたものかと悩んだのか両者はしばしの間見合ったまま沈黙していた。
やがて口を開いたのは文緒の方である。
「ご無沙汰しております。」
妙に丁寧な口調―当人は意識していないが―且つ微笑む文緒に照島も無視する訳には行かないと判断したらしい。
「おう。」
ぶっきらぼうに返してきた。