第7章 ・停電
「何だか疲れてきました。」
「そうか。このまま少し休むといい。」
「でも兄様が」
「俺は問題ない。」
膝の上の文緒はしばし若利を見上げてからまた視線を戻して目を閉じる。
「文緒。」
若利が声をかけるも義妹は返事をしない。あどけない顔で寝息を立てていた。
「仕方のない娘だ。」
ふうと息をついて若利はひとりごち膝の上の義妹を抱き直す。消えてしまった懐中電灯を戻す事まで気がいっていない。寝息を立てる義妹を抱きしめたまま考えていた。本当に仕方のない娘だと思う。こちらが衝動的に妙な行動を起こしたというのに特に咎めもせずにまた膝に乗ってきてそのまま寝入ってしまうとはどういうことか。以前も縁側で1人寝転がって昼寝をしてしまっていたし家の中では無防備にも程がある。いやそれより自分自身だ、自分は一体文緒に何をしようとした。
「わからない。」
若利はもう一度呟く。窓の外では相変わらず雨風が激しく、文緒は義兄の腕の中で眠り続けていた。
そして微妙に鈍感な若利はその後メッセージアプリでそれも天童に妙な事をしてしまったと事の次第を簡潔に送ってしまった。
勿論白鳥沢学園高校の学生寮でそれを受信した天童覚はええええええっと叫んでいた。
「うるっせえぞ天童っ。」
聞きつけて飛び込んできた瀬見英太も大概うるさい。
「英太クンもうるさいヨ、ってかこれ叫ぶなってのが無理だって。」
何のことだと天童が見せてきたスマートフォンの画面を見て瀬見もまたぎゃあああっと叫びとうとう男子バレー部のレギュラー連中が何事かと天童の部屋にわらわらやってきて白布賢二郎と川西太一以外は瀬見と同じように見せられたスマートフォンの画面にうわあああと叫んで慌てふためく。川西は叫ぶことすらできずに顔面蒼白、白布は黙ってひくひくと顔を引きつらせている。