第7章 ・停電
若利は思わず目を見開いて膝の上の義妹を見つめていた。閃光に照らされて浮かぶ白い肌、腕の中で感じる全体的に華奢な体つき、妹として貰ってからすっかり慣れているはずのその姿に何故か妙なざわつきを覚える。義妹の細い首筋に目をやって気がつけば若利は義妹を抱きかかえそのまま敷物の上に押し倒していた。
「兄、様」
戸惑うように呟く文緒、しかし若利は返事をしない。というより返事ができなかった。何かがこみ上げてくる。義妹の顔を両手でつかみ少々強引に唇を重ねる。シャランと若利が贈った例の首飾りのボールチェーンが音を立てる。んんと義妹が唸るのも若利は無視した。足りない、本能的にそう思う。乾いたような心持ちがしてたまらない。
「えっ。」
文緒が小さく声を上げた、ブラウスの片襟を若利に掴まれて。一方若利は止まらない、もう片方の手は義妹の細い手首を拘束し少しずれた片襟から覗く肌に唇を寄せる。場所を多少ずらしながら若利はそれを何度か繰り返した。
この時文緒は状況が理解できずひたすら義兄を見つめるばかりだったという。
「愛している。」
義妹の耳元でごく低く若利は思わずそう呟いていた。何故そうしたのか自分でもよくわからない。
「手放すつもりはない。」
「あの。」
「一生だ。」
無意識に文緒の片手を拘束する手に力が加わり、ブラウスの片襟にかかっていた手はボタンのあたりにかかっていた。文緒が身じろぎして何度か兄様と呟いていたのだが聞こえていたはずなのに聞くつもりがない自分がいる。
「兄様。」
とうとう先程までよりもはっきりした声で文緒に呼ばれてやっと若利はハッとした。薄暗がりの中戸惑ったように自分を見つめる義妹の目にさしもの若利もたじろぐ、顔からは大変わかりにくいのだけれど。
「すまん。」
慌てて若利は義妹を解放し身を起こす。
「どうなさったのですか、急に。」
ブラウスの襟の辺りを押さえ首飾りのボールチェーンを直しながら尋ねる義妹にしかし若利は答えられなかった。
「わからない。」
正直に言うしかなかった。
「ただ何かに突き動かされた気がした。」
文緒は微かにそうですかとだけ呟きゴソゴソと動いて自分から若利の膝の上に座り直す。コテンと頭を若利に預ける姿は相変わらず実年齢より幼く見えた。