第7章 ・停電
「入力が早いな。」
「そうでしょうか。」
「スマートフォンに変えてからそう経っていないだろう。」
「この端末で多少慣れてましたから。システムが違う分慣れない所もありますが。」
「そうか。何事も経験だな。」
「ただスマートフォンの方は画像がどこに入ったのかよくわからなくなります。林檎印は入る場所が決まっているのに。」
「そうか。」
「何かよいアプリがあるものでしょうか。」
「わからん。文芸部の友人に聞いてみてはどうだ。」
「そうですね。ついでに聞いてみましょう。」
また兄妹は静かになる。それぞれのスマートフォンはしばらくの間メッセージアプリのやり取りで振動し続け、2人は外の様子の事を一時忘れて返信を入力し続ける。
やり取りが終わったのはどれくらい経った頃だろうか。少し疲れて文緒がスマートフォンをスカートのポケットに入れ若利も傍らに自分の端末を置いた。
「天童が妙な事を言うので困る。」
若利が低く呟いた。
「いつもだとは思いますがまた何でしょう。」
「家の者が居ないと言ったらまた夫婦水入らずだと言ってきた。」
「何て事。後ほど一言送っておきます。」
「それと」
「まだ何か。」
「頑張って耐えろと。」
「何をでしょう。」
「わからない。夕飯は済ませた、特に空腹でもないのだが。」
「私もです。」
突っ込み不在の会話をしながら若利がまた文緒を膝に乗せ直した時だった。
ひときわ強い風がビュウウウウウと吹いた。ボタボタボタボタと大粒の雨が窓ガラスを割らんばかりに打った。っどこか近くに落ちたのか閃光が走り雷の音がバアンと鳴った。外でそれらがほぼ同時に起きたそんな一瞬誰も触れていない、電池もまだ切れる程ではないはずなのに懐中電灯が倒れて消灯する。
流石に驚いたのか文緒が身を縮こまらせ、若利はそんな義妹をそっと抱きしめた。案ずることはないと言おうとした時にまた閃光が走る。異変が起きたのはその時だった。