第7章 ・停電
「どうかされましたか。」
首を傾げる文緒に若利はいやと呟く。
「ついてきているのかふと気になった。」
「あらどうして。」
「足音がしなかったのでな。」
文緒はふふふと笑った。
「いくら私でもお家の中でいなくなったりしません。」
「神隠しという事があるかもしれない。」
「兄様には珍しい事を仰いますね。」
「何が起こるかわからない。お前と暮らすようになってから特に思う。」
「意外です。」
「何度も胡乱な輩の目を惹いている、何か違うものの気も惹く可能性がある。」
「もっとお美しい方がいらっしゃいます、私など。」
「自覚のない娘にはほとほと困ったものだ。」
「何て事。」
気がつけば文緒は義兄に片手を握られていてやがて兄妹は暗い居間で懐中電灯を見つけてまた部屋に戻ったのだった。
まだ暗い文緒の部屋、電気はまだ復旧しない。点灯させた懐中電灯を立てて置き兄妹はその前に座る。
「バレー部の皆さんの所は大丈夫でしょうか。」
若利の膝の上で文緒が言った。
「寮の設備は整っているはずだ、問題ないだろう。」
若利は言って膝の上の義妹を抱え直す。いつもながら幼い子供を乗せている父親に見えなくもない。言っている間に若利のスマートフォンが振動した。若利はむ、と呟いて通知を確認する。
「天童だ。」
「どうかされたんでしょうか。」
「いや、外がものすごいがこちらは大丈夫かと聞いてきた。」
「何て事、ご心配をおかけしてしまって。」
「お前の電話も鳴っているようだが。」
「瀬見さんと五色君ですね。あら、文芸部の人まで。無事かと聞かれてしまいました。」
「そうか。」
それから少しの間兄妹は沈黙してめいめいメッセージアプリの返信を打つ。打ちながら若利が文緒をちらりと見た。