第7章 ・停電
1人呟く文緒は映像機器のタッチパネルを操作した。辺りをスマートフォンの画面よりは大分明るい白い光が照らす。映像機器の背面に内蔵されたLEDライトだ。室内なら足元も十分わかるくらい明るい。それにしても義母達が留守の時にこれとは間の悪いことである。そういえばと文緒は思った。義兄の若利の様子はどうなのだろうか。まさか義兄が慌てているとは思えなかったがとりあえずとスマートフォンをスカートのポケットに入れてLEDライトを付けたままの携帯型映像機器を片手に立ち上がったその時だった。
「文緒。」
聞き慣れた低音の声と同時に部屋の戸が叩かれる。
「兄様。」
文緒は駆け寄って部屋の戸を開ける。はたしてそこにはLEDライトが点灯したスマホを片手に持った義兄の若利がいた。
「無事か。」
「はい。丁度兄様のご様子を見に行こうと思っておりました。」
「そうか。」
若利は言ってそのまま部屋に入りドサッと文緒のベッドの前に座る。
「怯えてはいないようだな。」
「雷は特に怖くはありません。このお家も丈夫ですし。」
「そうか。」
「でも兄様が来てくださって安心しました。」
「そうか。」
しばしの沈黙、文緒はポテポテと義兄に近づきその隣に座り込む。すぐさま若利の片腕が伸ばされてここに座れと膝に乗せられた。
「兄様、スマホの明かりは消された方が。通信用の電力を温存しないと。」
「そうだな。お前は。」
「この端末を使えばスマホの方は使わずに済みます。」
「なるほど、ガラケーから変えても手放さなかった訳がわかる。」
「本当は懐中電灯があればなお良かったのですがこの部屋には置いていなくて。」
「俺の部屋にも置いていない。迂闊だった。」
「居間には置いてあります。取りに行きましょうか。」
「そうだな。だが俺も行く。」
「あらご心配。」
「万一があってはいけない。」
結局義兄はどうしてもいくと言って聞かないので兄妹は2人して暗い廊下に出た。若利は文緒の携帯型映像機器を借り受けて先に歩き出し文緒がその後をついていく。
ミシリミシリと廊下が鳴るのは前を歩く若利の重みのせいか。文緒が同じところを踏んでも特に音がしない。一瞬若利が立ち止まって振り返った。