第7章 ・停電
「お風呂はもう沸いています。申し訳ありませんが私は先にいただきました。」
「問題ない。お前も濡れただろう。」
「はい。」
「風に飛ばされていないようで安堵した。」
「あら兄様がそんな冗談をおっしゃるなんて。」
「いや、天童や五色に心配された。」
「五色君はともかく天童さんは冗談でおっしゃったのでは。」
「そうか。ユーモアは相変わらず難しい。」
「いずれにしても風に飛ばされるだなんてまるで私が衣類みたいです。」
「軽くて薄いのは確かだ。」
「まあ何て事。ああ兄様、靴は置いたままにしてください。新聞紙を詰めてしばらく置いておきますから。」
「ああ頼んだ。」
いつもどおり若干ボケた会話を交わしてから若利は上がって風呂に入り、文緒とともに夕食にしたのだった。
その後は2人共自室に戻ってそれぞれ過ごしていた。文緒は愛用のモダンな文机で本を読んでいた。外は相変わらず荒れている。風に煽られた雨粒が窓ガラスにぶつかる音が何度も聞こえた。窓枠がガタガタするような事はなかったがそれでも風の音が絶え間ない。明日は晴れるかなと思いながらも特に動揺はなく本の頁(ページ)をめくり続けているその時だった。
バリバリッと音がして辺りが一瞬光る。文緒があ、と思った瞬間部屋の電灯が消えた。残った明かりは机に置いていたスマートフォンの画面からだけである。すぐ停電だとはわかった。いつ復帰するのかはわからない。後で間抜けだと自分でも思ったが文緒の部屋は懐中電灯を備えていなかった。とりあえずもっと輝度(きど)の高い明かりをと思って文緒は手探りで読みかけの本に栞を挟み更に薄暗がりの中スカートのポケットを探る。取り出したのは携帯電話をガラケーから変えてからもずっと持っていたあの携帯型映像機器である。
「確かこうやって」