第7章 ・停電
その日は天候がひどかった。とにもかくにも雨は大粒で勢い良く降り、風はビュウビュウと吹き荒れている。放課後の白鳥沢学園高校では帰宅しようとして時折風に傘を持っていかれそうになるのを必死でこらえている生徒達の姿が散見された。
牛島文緒もまたそんな悪天候の中風と格闘していてそれを目撃した生徒の中には傘どころか本人が風に持って行かれるのではと思った者もいたという。
幸い風に持っていかれる事はなく牛島文緒は自宅に帰りつき、ただし傘では防ぎきれない横からの雨で濡れた制服を脱いで風呂に入って着替えたりなどしていた。今日もまた義母と義祖母は留守だった。前の日から泊りがけででかけていたのである。そうして文緒は広い家に1人、しばしば聞こえてくる雨風の音に少々落ち着かないものを感じながらもいずれ戻る義兄の若利の為にタオルや足拭きを用意したり夕食の支度をしたり宿題をしたりしながら今も部活中である若利の帰りを待っていた。
玄関の戸がカラカラと開く音がしたのはどれくらい経った頃だろうか。文緒は慌てて自室から飛び出す。
「ただいま。」
義兄がいつもより少し早く帰ってきていた。
「おかえりなさいませ。」
文緒は言って足拭きを敷き、タオルを掴む。
「今日は早かったのですね。」
「この天候だったのでな。」
「そうでしたか。それより早く拭かないと、随分と濡れてらっしゃいます。」
「傘があまり役に立たなかった。風と雨があれだけ強ければ仕方がない。」
それ以前に若利が規格外サイズだからという説もある。文緒は急いで濡れた義兄を拭きにかかるがサイズの違い故にこれまたあまり役に立たない。結局若利が黙ってタオルを文緒から取り上げ自分で拭く形になった。