第6章 ・【外伝 】潔癖と怪童
そういう訳でその日の夜、佐久早は電話をかけていた。
「若利君、久しぶり。」
「佐久早か。」
スマホの受話口から低い声が聞こえる。
「久しいな。急にどうした。」
「ネットの記事見たんだけど。」
「そうか。」
「妹がいるんだって。」
「ああ。」
「随分妹可愛がってんだな。こっちじゃ天下のウシワカがシスコンってもっぱらの噂なんだけど。」
「チームにも溺愛していると言われるがどうにも納得がいかない。」
「どう見ても溺愛だろ。妹じゃなくて彼女作ってそっちと過ごせよ。」
「似たようなものだ。確かに今はまだ妹だが。」
「は、何言ってんの。」
佐久早は梟谷の連中からかなりざっくり情報しか聞いていない。―その場に赤葦もいたが面倒だったのかフォローしていなかった―故にきっちり勘違いをした。
「義理の妹だ。親を亡くした親戚の娘を母が引き取った。親戚と言ってもほぼ他人と言っていい程度の繋がりだ。」
佐久早は内心ホッとした。危うく若利君を別の意味でヤバい奴認定しなきゃなんないとこだったと思う。
「それはそれとしてもやっぱやりすぎだろ。」
「しばしば言われるがどうにも気に入ってしまってな。つい。」
「若利君からついと聞くとは思わなかった。」
そんな話をしているうちに向こうでドアがノックされる音がする。
「開けていい。」
若利は応え、佐久早の耳にドアが開く音と誰かの声がした。微かに聞こえたのは少女の声、兄様お風呂が空きましたと言っているように聞こえる。若利はああと返してまた電話に戻る。
「今のが妹。」
「そうだ。」
佐久早はふーんと呟く。
「兄様って呼ばれてんの。」
「ああ。」
「若利君がそうしろって言った訳。」
「いや、あれが勝手にやっている。」
「いいの。」
「問題ない。俺が兄には違いない。」
低い声の中に穏やかさが含まれている事を佐久早はすぐ感じ取った。
「若利君さ、」
佐久早は尋ねる。
「そんなに妹好きなの。」
若利はああと答える。
「愛している。」
電話の向こうで佐久早がカッと目を見開いた事を若利は知らない。