第5章 ・片仮名語
一連の会話の間、若利は特に何も考えず黙って耳を傾けていた。
そういう訳で勝負はまだ続く。
「あれ文緒ちゃん、どっか行くの。」
「あら天童さん、このところよくお会いしますね。自販機まで行きます、水筒のお茶がなくなってしまって。」
「隙がないねー。」
「恐れ入ります。」
また昼休み会話する2人、するとどこからかサッカーボールが飛んでくる。勢いはなかったので文緒にも天童にも当たらなかったがこれでもし文緒に当たっていたら若利が黙っていなかっただろう。
「あっぶねーなあ、外でも人通るとこでやるなっつのー。」
「いたずらの多い方に言われるのもなかなかの事ですね。」
「文緒ちゃんはいつから毒舌キャラになったのかなん。」
ここで微笑む文緒に天童はハッとした。
「くっそがああああああ。」
「とりあえず私はこの球を返してきますね。」
頭をバリバリやって悔しがる天童に対し文緒は飛んできたボールを抱えて小走りにかけていく。向こうからボールをすっ飛ばした当人もやってきたので程なくボールは戻される。
「では私は失礼します、天童さん。」
「俺も一緒に行く。」
「特に面白い事はないかと思いますが。」
「なーんか3連続でやられっ放しで逃げられんの腹立つっ。」
「大変申し上げにくいのですが」
「申してみてよ。」
「意外と些細な事に執着なさるのですね。」
「この幼女ほんと生意気。」
「私は幼女ではありません。少女です。」
「体形が幼女よりじゃん。ほら胸のあたりとか。」
「まあ何て事、気にしているのをご存知なのにそんな事を仰るなんて。」
「その癖体重には無頓着なんだから矛盾してるよねー。」
「仰いましたね。」
はたから見ればただのしょうもない口喧嘩だが文緒も天童もとにかく片仮名語を使わないように細心の注意を払っている。
「とにかく学校中で幼妻で通ってんだから諦めたら。」
「嫌です、違うものは違います。」
「しぶてえなあ。」
「天童さんに言われると落ち着かないものがあります。」
「何それ。」
「今現時点で強引についてきてらっしゃるので。」
「言いたい放題かよ。」
「事の発端はどなたですか。あ、こんな飲み物初めて見た。たまには買ってみよう。」
「ちっ、隙ありと思ったのに。」
「申し訳ありません。」
「やっぱ腹立つっ。」