第4章 ・人形の家
そういう訳で文緒は隙を見ては作業にかかっていた。
ある日は底を抜いた素麺箱と抜いていない素麺箱を接着剤でくっつけていた。
またまたある日はくっつけたそれに下地を塗って更に塗料で色をつけていた。外壁塗装といったところか。
更にまたある日は板で屋根らしきものを作っていた。
しばらく経った頃には文緒の部屋には素麺箱を2つ合わせて作った人形の家が飾られていた。
縦置きにして三段に区切られたそれは外側を白く塗ってあり、板をくっつけた簡素な屋根は赤く塗ってある。ご丁寧に内装も施してあった。可愛らしい小さな花柄が散りばめられた布を壁紙として貼り付けていたのだ。
「思うより凝ったものだな。」
その日義妹の部屋を訪れた若利は呟く。
「夏休みの課題でもあるまいに。」
「やっているうちに色々やりたくなりまして。」
文緒は言いながら粘土で作った小さなフライパンらしきものを摘(つま)み上げる。その上にこれまた粘土の小さな緑色のかけらをくっつけた塊を載せた。所々オレンジに彩色してある所があったから野菜炒めのつもりだろうか。更に文緒はそれを家の奥に設置した小さなガス台に載せて人形を前に立たせる。
そうかと思えば今度はミニチュアのテーブルに粘土で作った湯飲みらしきものと皿を置く。更にそこへもう一体人形を座らせた。
「楽しそうに見える。」
「楽しいです。自分の世界を好きに作れるので。」
「そうか。」
若利は言ってふととあるものに目を留めた。
「これは。」
素麺箱の人形の家の外に置かれたミニチュアの赤いピアノ、鍵盤は描いてあるだけで蓋を開けてもからくりはなくただくり抜いてあるだけのシンプルな作りだ。ただ鍵盤の変色具合から年季が入っているのは確かだった。
「亡くなった母がくれたものです。もともとは母が娘の頃に持っていたものだと。」
「そうか。椅子が小さすぎはしないか。」
「本当は人形用ではなく飾り物なんです。でも雰囲気があるので。」
「そうか。」
「家の中に入れられないサイズなのも残念ですね。」
ふふふと笑う文緒に若利はふと思いついた。