第4章 ・人形の家
「文緒ちゃん一体何始めたの。」
「人形の家を作るつもりらしい。」
「人形飾るの好きなのは知ってるけどさ、えらいこと始めたもんだね。」
「替わってやろうとしたが断られてしまった。頑固な娘は困る。」
「そりゃおまいうって奴だよ、若利君。」
「何と言った。」
「お前が言うなってことー。」
「俺は頑固じゃない。」
「はいはい。」
「切るぞ。」
「えちょ待って早過ぎっ。」
「まだ何かあるのか。」
「箱くりぬいてどうすんのか楽しみだねー。メイキング画像ヨロ。」
「それは文緒に言え。」
「俺から言って文緒ちゃんが素直にくれる訳ないじゃん。」
「それは挑発を混ぜるからではないのか。」
「辛辣(しんらつ)だねえ、若利君。」
「すぐ乗る文緒も文緒だが。」
言っている間にまた裏庭からガンガンという音が響いて若利は一瞬沈黙した。
「行ったげたら。」
察したらしき天童に言われて若利はすまんと呟き電話を切った。
結局若利が裏庭に舞い戻ってみると文緒はやはり素麺箱と格闘していた。底板は少しばかり浮いてきていたが当の本人の手が赤い。
「怪我はないか。」
開口一番若利はそう呟いていた。
「大丈夫です、兄様。ただ今日はこの辺りにしておきます。」
「それがいい。」
若利は片付けにかかる義妹を手伝う。
「兄様、どうされました。」
「色も塗るつもりか。」
問う若利の視線の先には幾つかの塗料、今日日の事だもしかしたら100円ショップで買い求めたのかもしれない。
「流石にお素麺の銘柄をそのままではどうかと思いますので。」
「そうか。」
「この銘柄は確かにおいしいのですが。」
「そうか。これはどこのだったか。」
「奈良です、兄様。」
「そうか。」
会話だけ聞いていたら何が何だかわからない中で兄妹は片付けを終えた。