第4章 ・人形の家
休日の事だった。バレー部の練習を終えた若利が帰宅したら裏庭からガンガンと妙な音が聞こえる。何事かと思って回ってみると義妹の文緒が金槌を片手に何かをしていた。近づいてみると若利に気づいたのか体操服姿の義妹は額の汗を拭いながら言う。
「あら兄様、おかえりなさいませ。」
「ただいま。」
若利は言って義妹の手元に目をやる。
「何をしている。」
義妹は金槌で木箱の底を叩いていた。
「この箱の底を抜こうとしています。」
「それはわかるが何故そういう事をしている。」
「人形の家をこさえようと思い立ちまして。」
「そうか。」
そういえば義妹の部屋の棚には産みの母の形見だという人形が家具と一緒に飾られている。あれはあれで装飾としては悪くないと思うがとうとう外側を作る気になったらしい。
「この箱は。」
「頂き物のお素麺の箱です。お母様が持っていって良いと仰ってくださったので貰ってきました。」
「そうか。」
若利は呟き文緒はすぐに仕事に戻る。ガンガンと一生懸命に金槌を奮っているがすぐに離して手をパタパタと振る。非力な為だろう、底板はあまり動いている様子がない。
「替わろう。」
若利は思わずそう口にしていた。
「あらいけません兄様、練習でお疲れでしょうに。」
「お前が肩肘を痛める方が問題だ。」
「お気になさらずに。どうか休んでくださいな。」
「そうか。」
こう見えて頑固な義妹だ、今はこれ以上言っても無駄と判断して若利は一旦母屋に入った。
そうして若利は着替えて自室で寛(くつろ)いでいた訳だがしかし裏庭から断続的に金槌の音がガンガンと響いている。音だけならまだしもやっているのがあの華奢な義妹である。誤って手などを打ち付けたりなどしなければよいがと思いつつ若利はしばらく月刊バリボーのバックナンバーに目を通していた。
やがてスマホが振動して取ってみたら天童からの音声通話だ。
「若利君お疲れー。今ダイジョブ。」
「ああ、構わない。」
「いやこれって用じゃないんだけどね、何となく。」
「そうか。」
「もしかしてまた文緒ちゃん膝に乗ってけたりする。」
「いや、文緒は今素麺箱の底を抜きにかかっている。」
当然天童はハ、と疑問形で返す。