第1章 総統のいたずら
動揺しながらベッドに乗り、移動された枕の位置や大きくズレたシーツの皺を直した。
ここにさっきまで……王馬くんが寝っ転がってたんだよな。
微かにまだ暖かみの残るベッドや枕を撫でた。
駄目だ、どうしても意識してしまう。
ドキドキしながら枕に顔を埋めてみた。
『…………。』
……女の子みたいな匂いがする。
そこにほんの少し埃や土の匂いが混じっていたけど、まぁ、毎日探索とかしてみんな色んなところに入るから仕方がない。
いっそベビーパウダーみたいな匂いがするんじゃないかと思っていた自分としては、かなり大人びた印象を受けた。
てか……何で匂いなんて嗅いでるんだろう。
理由の分からない溜め息を吐きながら起き上がる。
さて、生乾きの髪を乾かさなければ。
私はドライヤーをかけに、またシャワールームに戻った。
シャワールームに入ると、自然と頭の中でインターホンのチャイム音が響く。
髪にドライヤーで温風を当てながら、本物の音じゃないかと1度疑うように人の気配の有無を確かめたがどうやら違うらしい。
あのやり取りが習慣になりかけているんだな、と余計な生活リズムを覚える自分の脳を恨めしく思った。
…………。
『(……また明日も来るのかなぁ。)』
ポツリと口の中で呟いた。
毎晩来るのは分かっているけど、昨日と今日じゃ私の中での王馬くんの見方が少し変わってしまった。だから明日もこれまでのように愛想のない対応が出来るのか、と心配になる。
王馬くんは例の如く人をからかうのが大好きな奴だ。
精神的に不安定な状態で会話しても無駄に翻弄されるだけっていうのは容易に想像できる。
でも、心のどこかで次の訪問を楽しみにしている自分もいるのは分かっている。
王馬くんの気持ちが本当だろうが嘘だろうが、多分これは私の負けなんだろうな。「好き」のたった一言で王馬くんに対して気を持ち始めてしまった時点で、もうこれからどれだけ振り回されるのか予想が出来た。
関わらない方がいい。
相手にするだけ無駄。
一緒に居たって嫌がらせを受けるだけ。
どれだけ事実に基づいた忠告を浮かれた心に投げつけても、何も響かない様子だし相変わらず根拠のない期待を掲げていた。
ココロンパ失敗である。