第32章 最後の一欠片
「いや、希灯だけのせいじゃないはずだ。今お互いに完全に友情だけで一緒に居るから、もしかしたらそれが原因なのかもって……」
歯切れの悪い俺の言葉を聞きながら、希灯は真っ直ぐに見つめてきた。
『とは言っても、いきなり異性として見れるの?。』
「俺、は…………見れる」
申し訳なさを感じ、思わず目を逸らしながら答える。
『そうなんだ?。』
「希灯は……?」
『私は……。ごめん、わからない。』
曖昧に首を横に振りながら、希灯がそう言った。
『とりあえずさ、抱き締め合ってみない?。何か変わるかも。』
今までやってこなかった、物理的な接触。
少しでも事態が好転することを願ってか、希灯は両腕を広げて俺に抱擁を提案した。
「い、いいのか……?」
『いいよ。四の五の言ってられないし。』
その言葉に俺はおそるおそる希灯の両脇に腕を通し、ゆっくりと背中に手を回した。
クーラーの効いた部屋で、互いの接触面にじんわりと熱が籠る。
『……どう?。何か変わりそう?。』
「えっと……希灯は?」
『うーん……。よく分かんない。』
お互いに煮え切らない返答をする。けれど俺の心臓は少しずつ鼓動を速めていっていた。
「抱き締めるだけじゃダメか……手も繋ぐか?」
『恋人繋ぎ?。はは、日向くんの手でっか。』
「体勢も変えてみるか」
ベッドに横たわって、手を繋いだ状態で抱き寄せ合う。
希望のカケラが埋まる気配はない。
段々と越えてはいけないラインに近付いてきているのを感じながらも、提案を続ける。
「き……キスとか、試しにしてみるか?」
言いながら希灯の様子を窺うと、その顔は少し赤らんではいるものの表情は明らかに曇っていた。
「…………さすがにそれは無いよな、ごめん」
『……。』
俺の股の膨らみをチラッと確認して、それから目を逸らすように希灯は天井を仰ぎ見る。
『やめとこう。あんまり良い案には思えないよ……。』
小さく溜め息を溢しながら呟くように言う。