第2章 アドルフ・ラインハルト
それから私たちは毎日
あの図書館で会っていた
他愛もない話から
彼の出生のことまで…
あの時彼が差し出したハンカチを
ようやく返せた時
彼は笑っていた
よく今まで持ってたねって。
「ねぇ、あの時私に言ったでしょ?
”濡れると危ない”って…
よく意味がわからなくて
あの時は流してたけど
あれってどういう意味なの?」
「ああ、あれはー…
俺の力の関係でさ」
「力…そうだ!
今まで聞いたことなかったけど
アドルフくんの生物ベースはなんなの?」
「俺のは、デンキウナギだよ」
「デンキウナギ?」
「そう。電気を放つことができる
それであの時は
感電がこわくて
早く涙を拭いて欲しくて」
「そうだったんだ…
デンキウナギ…かぁ
それでその火傷が…」
「まぁ、しょうがないさ」
彼は長い襟をクッとさらに上にあげ
口元を隠した
「…見たい」
「え?」
「アドルフくんの顔
もっとよく見たいな…
なんて…」
「…こんなの見たって…」
私があまりにも真剣な目をしていたからか
彼は仕方なく承諾してくれた
顔の半分を隠している
長い襟のチャックを静かに下ろす
なんだかいけないことをしている気分
ドキドキする
じぃぃ…っとチャックを胸元まで開けると
今まで見えなかった顔の全てと
首元
鎖骨までが露わになった
想像していたより遥かに
ひどい傷跡
当時の周りな子でも
ここまで体に傷をおっている子は
見たことなかった
どうしてあの子だけあんなに…?
と疑問を持ったこともある
デンキウナギの能力
そしてこの体…
私にはとうてい理解できないような
想像を絶する過酷な実験を
毎日施されていたんだろう
私は自然と彼を抱きしめていた
「アドルフくん…」
「っ…」
彼も両親を手術で亡くしている
その後は彼自身が手術を受けることになり
彼は成功して…
ずっとあの施設での暮らしをしていた
人から抱きしめられることなんて
なかったと思う
愛情なんてくれる人
あそこにはいない
彼の悲しそうな目は
もう見たくないから
私でよければ
いっぱい
いっぱい愛してあげたい
そう思って
たくさん抱きしめた
「ほら……
危ないから、泣かないで」
あの時と同じ言葉。