第3章 それは偽りの愛でした
胸に当てられていたアドルフさんの手が
少し動いた
私の肩を両手で抑えると
ゆっくりと体を離す
「っ…!アドルフさ…」
「お前は…本当にっ…」
何かを言いかけていたが深い深呼吸で
言葉は出てこなかった。
「…ごめんなさい」
嫌われたかも、と思った。
こんなことまでして
はしたない女と思われたかな。
「」
名前を呼ばれ顔を見上げると
ふわっと顔を両手で包まれ
優しく、キスをしてくれた。
あ、まただ…
胸が痛い…
涙でぐしゃぐしゃの私の顔を拭うと
何も言わずに力強く抱きしめられた。
これは、どういう意味なんだろう。
この先の未来を期待してもいいの…?
それとも…
「俺たち、もう
キス…したんだよな?」
「…え?」
唐突な質問にキョトンとしていると
再び、優しいキスがおりてくる
今度は少しだけ長め。
アドルフさんの手が私の腰をグッと引き寄せる
全てがとろけて交わってしまうかのような
感覚に陥り、ガクッと足の力が抜けた。
「〜〜っ!!…アドルフさん…っ
いきなりすぎます…」
「いきなりしてきたのはそっちだろ?」
「そうですけど…
でも…どうして…?
こんなことされたら私…
期待しちゃいますよ…?」
アドルフさんはさっきとはまったく違う
優しい顔で微笑んだ
「…もう、決めたから」
「決めた…?」
「これで、俺も悪者だ。
この偽りの結婚生活もそろそろ
終わりにしなければ…」
「悪者は…私だけでよかったのに…」
「そんなことできるわけないだろ
…今日の夜は家に帰る
悪いが、そうローザに伝えてくれないか?」
「…わかりました」
「そんな、悲しい顔をするな」
「…してません」
「してるだろ」
「…してません…」
「フッ…意外と頑固だな」
私の頭をポンと撫でると
部屋の扉を開けた。
「帰るために仕事終わらせないとな
お前も、早く戻れ」
「わかりました
アドルフさん…私、待ってますから」
彼は小さく頷くと部屋へ戻っていった
薄暗い廊下に再び訪れる静寂
ローザさんの元へ私は歩き出した。