第3章 それは偽りの愛でした
次の日、私はいつも通り出社し制服に着替えていると
なにやら外が騒がしいことに気付いた。
受付カウンターにチラッと顔を出すと
そこにいたのはローザさん。
昨日よりも一層落ち着きのない様子で
声を荒げていた。
「アドルフを…!!アドルフを呼んでください!」
「お客様!落ち着いてくださいっ!
アドルフさんは現在お繋ぎできない状況でして…」
「お客様じゃない!
私は…私はアドルフの妻です!
緊急なんです!!」
「申し訳ございません…お繋ぎは…できません」
国家レベルの機密事項を扱う宇宙開発部
たとえ家族であっても会えないことはよくある。
アドルフさん、忙しいのだろう。
それとも…面会拒否?
こんな場面で登場したりはしたくなかったが
そろそろ交代の時間。
私は深呼吸をして平常心を保ちながら
ゆっくりとカウンターに足を踏み入れた。
泣き腫らした顔のローザさんと目が合う。
平常心…平常心…
大丈夫だ!お前ならできる!
最初の研修で教わっただろ!
"受付嬢は会社の華"
"おもてなしの心を忘れない"
"常に女優であるべし"
私は奥から濡れたおしぼりを取ってきて
ローザさんに渡す。
「きれいなお顔が台無しです」
ローザは何か言いたげな表情をしたが
それを飲み込んでゆっくりと
おしぼりを受け取った。
「ローザさん、昨日は偉そうなことを言ってしまい
申し訳ございませんでした」
「いえ…私こそ取り乱してこんなお見苦しいところを…
ほんと、ごめんなさい…
けど…!アドルフに…どうしても会いたいの!
お願いします…呼んできてください…」