第2章 帰って来た日
勇利はポツリポツリと話し始めた。
もうスケートをやめようかと思っていること。でもまだやめたくない。どうすればいいかわからない。自分にとってのスケートが何か、自分がスケートをやめたらどうなってしまうのか、もうなにもわからなくなってしまったということ。だからこのあと、練習したヴィクトル・ニキフォロフのFSであるアリア 離れずにそばにいてを優子に見せにいくということ。
「でもやっぱり最初にユラに言いたくて」
「うん?」
急に出て来た自分の名前に、自分のために淹れたアートも施されていないラテを飲みながら視線だけあげる。
勇利もマグカップを片手にこちらを見ていた。
「ただいま、って言いたくて」
照れたようにいうからこっちまで照れてしまうところだった。
危ない。変な空気になる。ラテを嚥下してちょっと口の端をあげて笑ってやった。イケメンっぽく、を意識して生きているのだ。
「ありがてえこったね、大層に太ってきてるから別人かと思ったけど」
「ウッ……太りやすいのは知ってるでしょ……」
「さすがにそこまで太ったのは見たことないぞ。それでヴィクトルのFS?どっか痛めんなよ」
「気をつけます……」
気の抜けた顔だったのが瞬時に青ざめて、もう帰りたそうな顔をしている。小言はごめんだ、と表情に出ていた。なんだかんだ生意気なところがあるよね、勇利って。
アイスキャッスル閉まっちゃう前に行きな、勧めるとあからさまにほっとした顔をした。顔に出すぎ。
でも俺も少しほっとした。ずっとこの前のグランプリファイナルみたいにお通夜みたいな顔されてても、怒ってしまったかもしれないから、今日は割と吹っ切れた顔をしていて安心したのだ。
「じゃあ、ごちそうさま。またね」
「おー」
「毎日来ていい?」
「もちろん」
席を立った勇利に、ヒラヒラと手を振る。あ、
「勇利、おかえり」
靴紐を確認するのにしゃがんでいた勇利の背中に思い出したように声をかける。すると急に勇利は立ち上がって、グルン!とこちらを振りむいた。あ、泣いてる。
「ただいま!!!!」
そのままの勢いで勇利はドアを勢いよく開け、走ってアイスキャッスルの方は走って行ってしまった。なんだなんだ。嬉しかったのか。多分アレは俺だけじゃなくて皆おかえりって言ってくれて、それが積み重なって泣いてるな。やーい泣き虫!
