第2章 帰って来た日
そんなことを思い出しているうちに勇利が帰って来るはずの時間になろうとしていた。
結局あのあとはすぐ解散して、俺もすぐ帰国したからメールでしかやりとりしていない。あの話以来かあ、もう落ち着いただろうか。
最後の客を送り出して、勇利が好きそうなジャズのCDをプレイヤーに入れ替える。ゆったりしてても眠くならない、なんだか踊りたくなるような曲。
マグを拭いたり、エスプレッソマシンの手入れをしたりしているうちに来るだろうと店を閉めていると、カラン、と客を知らせる鈴が鳴った。勇利だ。
「来ると思ってたから店閉めてたぞ、勇利」
しゃがんでいた体を起こして、カウンターから顔を出すと、……記憶とは随分違う勇利がいた。え、面白いんだけど。
「…………久しぶり。グランプリファイナル以来だな」
「やめてさー」
なんだかモコモコとした服に身を包み、いや服がなくてもモコモコというかプニプニというかなんというか、ふとましいだろ。明らかに太っているだろ。……勇利はヘラッと笑っている。
やめてってどこを恥じらっているんだか。あの(勇利にとっての)大敗北か、それとも大号泣か?
「まあ座って。ラテでいいか?」
「ありがと。豪華なアートして」
「ハート?リーフ?」
「スワン!!」
勇利は俺が勇利の体系をまじまじと見ていることに気づいているのかいないのか、のんきにラテアートの注文をつけて来た。そういうお店だからいいんだけどね。
温度計を見ながらミルクのスチームをしつつ、エスプレッソのショットも落とす。
「長旅お疲れ。ここに来るの明日でも良かったんだぞ」
「ユラなら僕が今日来るって待ってるだろうなーと思って」
「ご明察ではあるな」
70℃付近まで温まったミルクを、素早くマグカップに抽出されたエスプレッソに混ぜ合わせながらラテアートを描いていくのを、勇利は熱心に見ていた。この喫茶店をオープンして最初のお客様になった時から勇利の行動は変わらない。
「ほんとすごい、どうやってるのかもわからない」
「練習の賜物。スケートと一緒」
そうかなあ。そうです。
出来上がったラテを勇利に渡すと、勇利は珍しく携帯を取り出して、写真を撮っていた。SNSも全然使わないのに。怪訝な視線に気づいたのか、勇利は少し照れながら笑った。
「思い出のための写真は大事だって、ユラが教えてくれたから」
