第4章 初夏
珍しいことに真利がうちの喫茶店へやってきた。勝生真利。勝生勇利の姉で、俺の3個上の先輩だ。小学校ぐらいしか一緒に通ってはないけど、勇利のこともあって普通に仲がいい。
「うち禁煙なんですけど大丈夫ですかーお姉さん」
「常にニコチン足りてないわけじゃないっつーの。カフェイン摂取しにきたのー」
「エスプレッソ飲む?」
「苦くないものでよろしく」
「ハニーバニララテ?」
「甘くないものでよろしく」
「注文が多いなあ」
こうやって取り留めのないことを言い合いながら、真利の好きなダブルショットのカフェラテをつくるのが2人のお約束だ。苦すぎず、甘すぎず。カフェインたっぷりのものを。1ヶ月に一回ぐらいのスパンでしか真利はうちに来ないけど、絶対同じものを飲むからもうオーダーを取るのはやめた。
「で、どうしたの?なーんか相談?」
うちにくるとき、真利はだいたいなにかしらの相談をひっさげている。開店当初は後継の悩みとか、友人関係とか、そういうのが多かったけど、最近はもっぱら勇利の話。勇利は恥ずかしがってるのか薄情なのかわからないけど、滅多に家族に近況を伝えないから、真利も心配だったんだろう、デトロイト時代は入店と同時に「勇利どう?」なんて聞いてきていた。
さっぱりした性格ではあるけど、勝生家の人間らしく家族思いである。
「勇利のせいなんだけど」
「え、なに」
出来上がった濃いカフェラテを一口飲んで、真利は話し始めた。
「最近なんか楽しそうすぎない?」
「……勇利が?」
「ヴィクトルと」
「…………もしかして真利結婚したいの?」
それは嫉妬だ、真利。サッ!っと目をそらす彼女に苦笑が漏れる。夫婦、とまでは言わないけど最近勇利とヴィクトルはめちゃくちゃ仲がいい。友人とも違うし、恋人でもないが、喧嘩を乗り越えて2人の絆は傍目にも強固になったのがわかる。たまに本当にコーチと生徒か?って疑うぐらい距離が近い(だいたいヴィクトルのせいだ)し、独り身でアレを見るとちょっと羨ましくなるのはなんとなく理解できる。
「結婚、じゃなくてもいいけど」
「なにもごもごしてんの。だーいじょうぶ、真利姉ちゃんには絶対いい人が現れるけんね、安心しとって」
「ニヤニヤすんな腹立つわ」
珍しく乙女っぽい真利にはケーキをプレゼントしておいた。