第3章 春
2人がそろそろ帰ると言うので、(ゆ〜とぴあかつきにユリオも泊まっていることを聞いた)軽く閉店作業をするのを待ってもらって、ある程度片付いてから一緒にスケートリンクに勇利を回収しにいくことにした。まだ30分ぐらいしか経っていないけど、オーバーワークさせないためにもそろそろやめさせないといけない。
リンクに行くと、勇利はこちらに気づかない様子で、ひたすらコンパルソリーをしていた。うわー、生勇利だ!!普通に喫茶店でみるのなんかとは違う。なんだか張りつめていて、でも指の先まで温かい何かが流れているかのような、スケーターの勇利。久々に見て無駄に笑顔になってしまう。
勇利はなにかをすごく悩んでいるような顔をしていた。新しいSPの表現だろうか。まだどんな曲をやるのかなんて聞いていないので、相談に乗れたら乗ってやることにした。
「勇利!もう帰るよ〜」
ヴィクトルが声をかけたところでやっとこちらに気づいた勇利が、俺を見て目を丸くする。
「なんで来たの?」
来ちゃ悪いのか?ほんとこいつ、デリカシーない。求めてないけど。腹が立ったのでペーパーカップに入れたラテを持ち上げてから自分で飲む仕草をした、ら慌てていた。
「飲むから!あっ待ってヴィクトル、ストレッチしてない!」
隣で早く帰ろ〜なんて言ってるヴィクトルにさらに勇利が慌てるのが面白い。
ちなみにユリオは外で待っている。先に帰ってしまうかと思ったが、なんだかんだ付き合ってくれるようだった。
仕方ない、と荷物を置いて、スケート靴を脱いだ勇利のストレッチを手伝う。何年振りだろうか、5年、いやもっとか?ずっと勇利のスケートのサポートをしていたのでストレッチも手馴れたものである。ヴィクトルも感心したようにこちらを見ていた。
「ね、なんで来たの?」
「温泉いこーと思って」
「そっかあ」
ヴィクトルがそれを聞いて後ろで笑っている。そういえばさっき、スケートしてる勇利が見たいとか言っちゃった気がするな。バラされて困るものでもないが、嘘をついた手前そのままなにも言わないで欲しい。ってか日本語で言えばよかったんだな、失敗した。
軽くストレッチを終え、あとは家でやるってことにして、バッグを抱えてアイスキャッスルはせつを後にする。ユリオに待たせてごめんって言ったら別に、って顔を晒してたのが面白かった。
