第3章 春
翌日、ヴィクトルとプリセツキーが我が店にやってきた。
「藍坂!昨日は助かったぜ!円に変えてきたから金返す」
「いいよいいよ、日本へようこそってことで。歓迎のプレゼント」
「お前……いいやつだな」
入店早々すごい勢いでお礼を言ってきたプリセツキーに苦笑していると、ヴィクトルが興味津々にこちらを覗いてきた。
「ロシア語喋れるんだ?っていうかなんかなついてない?」
ペットか。案の定プリセツキーはすごいギャンギャン文句を言っている。おお、アイスキャットっぽい。
「プリセツキー、とりあえず座りなよ。なに飲む?おすすめはラテだけど」
「じゃあそれで!」
「俺は無視?俺もラテ飲みたいなあ」
「はいはい。ロシア語喋れるよ。初対面で英語だったからなんかロシア語で話すのも変だっただろ」
2人が椅子についたのを確認して、いつも通りマグをあたためてからミルクのスチームを始めた。
「勇利も喋れないのに、喫茶店のマスターがトリリンガル…」
「フランス語も出来るつってたぞ」
「Really?」
「Un peu.」
フランス語で少しぐらいは、なんて答えておいた。まあ普通に喋れるけど。なんせ勇利の大会についていくのに、言葉がわからないと楽しめないし、なんかの拍子で勇利に通訳を求められた時わからないとカッコ悪いだろ。スペイン語もちょっとずつ覚えてきてるし、割と何でもかんでも俺の中心は勝生勇利である。
語学オタクなんて昨日は言ったが、実際のところ勇利オタクだ。
2人にラテアートを施したラテを渡すと、2人ともすごい勢いで喜んだ。ヴィクトルなんかほぼ毎日見てるだろうに、マグと一緒に自撮りしている。今回は珍しくフォームミルクを使って立体的にプードルと猫を描いたから、気持ちはわからないでもないが。
「やっぱりユラはラテアートの天才だよ!」
「超ヤベえ!!!クールジャパン!!」
日本の文化じゃないけどな、ラテは。
「ところで勇利は?」
「は?ああ、カツ丼ならやっとリンクに上がれたからってまだ滑ってるぞ」
「ああごめん、勝生のほうね。そっかー」
まだ滑っているならあとで覗いても構わないだろうか。せっかく勇利が帰ってきたのに、実はまだ勇利がスケートをしているところを生で見ていないのだ。なんかしら差し入れ持ってあとで行くことに決めた。