第3章 春
さっき商店街で会った日本人の藍坂ユラは、なんというか面倒見がいいタイプの人間だった。日本人は親切だけど外国人に自分から話しかけるほど社交的でもないと聞いていた自分にとって、それはすこし驚くことだった。
助かったし、ありがてえけどな!
今はヴィクトルがいるというスケートリンクに案内してもらっている。
会話が途切れてしまったので、気になっていたことを質問することにした。
「なあ、なんでロシア語喋れるんだ?」
「え?語学オタクだからなあ、俺。日本語は、まあもちろんだけど…英語もフランス語も喋れるぞ。今は中国語を勉強してる」
ヴィクトルだって母国語と英語の他にはフランス語ぐらいしか喋れないぞ。アイツと比べるのも癪だけど……。
「仕事はなにしてるんだ?」
「喫茶店のマスターだよ、語学全く関係ない」
「ハア?もったいねー」
「そうかなあ」
藍坂ユラは能天気に笑っている。だいたい4ヵ国語も喋れるなら通訳とか、もっと実入りのいい仕事がありそうなもんだろ……。よっぽど喫茶店のマスターに憧れていたのだろうか。まあ、コーヒーを淹れるじいちゃんを思い出すとちょっとかっこよさはわかるかもしれない。
そのまま他愛のない話を、もちろん全てロシア語でしていると、やっとスケートリンクらしき建物についた。……なんか入り口の人混みやばくねえか?あのハゲのファンはこんなど田舎にもいるんだな……。
「あそこ。小さい女の子が3人、入場規制してると思うけど、プリセツキーなら入れてもらえるから頑張って」
「お前は行かねえの」
「今日は今からお店あけるから。ヴィクトルに場所聞いていつでも来てね」
「おー。サンキューな」
藍坂が指差した入り口へ向かう。すごい世話になったし、後で絶対その喫茶店へ行こう。ロシアのアイスタイガーは恩義に厚いのだ。
そしてその前に、あの無駄に踊る豚をとっとと殺してやる!!
バンケットでの恨みまじりに、ユーリはアイスキャッスルはせつへと踏み出した。