第3章 春
「Hello、ユラです」
「あれなに?お腹空いたんだけどなんで勇利1人で食べてるの?」
「え?ヴィクトル誘われてないの?」
「誘われてないよ!!今から行くからね」
一瞬で通話が切れた。ヴィクトル怒ってるぞ、と勇利につたえるとなんで?とでも言いたげに目を丸くした。ほんと勇利ってそういうとこある。薄情者!
ヴィクトルは本当にすぐにやってきた。スケートリンクにいたんだろうね、あそこからは5分もかからずうちに来れる。
「勇利!!!メニュー終わったら報告しに来いって言っただろう?」
「お、おなかすいたから食べてからでいいかなって……」
「そんなんだから子豚ちゃんなんだよ!ご飯食べずに俺が待ってるって思わなかった?」
やっと勇利がちょっと気まずそうな顔をした。この師弟めちゃくちゃ面白いな。思ったより息が噛み合ってないぞ。
なんだかんだいって勇利はマイペースだし、自分本位でものを進める。その割に言葉が足りないからヴィクトルも大変なんだろうなあ。
ヴィクトルが来ると電話で聞いた時から作り始めていたボンゴレビアンコを、2人の喧嘩を聴きながら仕上げていく。1人で喫茶店を回しているから、いろんな仕事が速くなった。合間にフォームミルクを乗せたアイスのキャラメルマキアートをヴィクトルに差し出すと、ヴィクトルはそれまで怖い笑顔だったのを改めて、ちょっと落ち着いたようだった。
「ところでそれはハンバーグ?カロリー大丈夫?」
「おからだからカロリーないよ。タンパク質はある」
「一口欲しいなあ」
「えーっ……いいけど……」
勇利から一口もらって(あーんとかはしてない。フォークを渡していた)ヴィクトルはすぐに目をパチパチしていた。目が語ってるぞ、美味しいって。
「本当にオカラ?肉混ざってない?」
「混ざってない混ざってない、ほらそれ以上食べると勇利の分なくなるから狙うのやめてあげて。ヴィクトルはこっち」
二口目以上食べようとするヴィクトルを制しながら、ちょうど出来上がったボンゴレビアンコをヴィクトルの前に差し出す。ボンゴレビアンコとは、白ワインで調味した二枚貝を使ったパスタである。見た目重視の人間なので、王道のアサリではなく大きく綺麗なハマグリを使っているが。
喜んで食べ始めたヴィクトルにほっとして勇利も残りに手をつけている。なんだか手がかかる子供みたいだなあ。
