第3章 春
その日の昼、勇利が来た。最近ずっと汗だくで走り続けているからか、店に入る前にシャワーを浴びて来てくれる。客商売だからありがたいよね。
勇利以外にもお客さんはいるけど、基本的にこの時間は主婦の方々がランチに来るだけで、勇利には目もくれず旦那の愚痴か、子供の将来の不安を話しているだけだから、勇利も気兼ねせず来れるのだ。
「何食べる?」
「ダイエットできるならなんでも……」
「困るなあ」
ダイエット、まだまだ3日目である。成果はすでに少しずつ出てきたようだ。太ってできた脂肪をダイエットで筋肉に変える、勇利式ダイエットはスタミナのある勇利にはうってつけではあるが、見ている側からするとげんなりするほどハードだ。ヴィクトル監修なのもあって、ハードコアだ。
勇利に無脂肪の牛乳で作ったアイスラテを渡すと、嬉しそうに飲み始めた。ちなみに最近このラテに使ってるエスプレッソは、カフェインレスの豆で落としている。どうせ人間なんてコーヒー飲んでるってプラシーボで目がさめるんだから、アスリートにカフェインの多量摂取なんてさせられない。
ちなみにバンケットの話は、ヴィクトルに勇利にはしないように言われている。
勇利が昼に来るかもと仕込んでおいたおからハンバーグのタネを大きめに丸めて焼き、蒸し野菜を温め、目玉焼きを型で焼いている間に勇利はこれでもかとヴィクトルの愚痴を言っていた。
やれ距離感がおかしい、滑らせてくれないなんて鬼、ゆ〜とぴあかつきの客にも絡んで酒を一緒に飲んでいる、かっこよくてつらい、など。最後のは腹が立ったので無視した。
おからハンバーグに目玉焼きをのせ、周りに蒸し野菜を盛り付けたら完成である。ちょっと味付けをして勇利に出すとそれはもう喜んだ。
「すごい!ブロッコリーがない!!」
「なんだそれ。ヴィクトルに写真送ってから食べろよ」
「やばかー、ダイエット食がオシャレ」
勇利は嬉しそうにハンバーグの写真を撮り、ヴィクトルにメールするときは無表情だった。ちょっと恨みが積もっていそうである。
食べ始めた頃、勇利に着信があった。ヴィクトルだということを確認すると勇利は俺にスマートフォンを突き出して来た。出ろって?自分は食べるから?そう。