第3章 春
勇利とヴィクトルは、割と別々にこの喫茶店へ訪れる。
朝、休憩中、昼ごはんどきに、リンクから帰る前。勇利がうちのコーヒーが好きなことは知っていたけど、ヴィクトルも毎日うちへ通ってくれるのは意外だった。お酒の方が好きそうだよね、彼。毎日10分ちょっとから1時間の間で、彼らは俺のところにやってくる。
「ユラ〜〜!morning!」
「おはようヴィクトル。早いね」
今日朝1番のお客様はヴィクトルだった。うちは元々10時オープンだけど、最近は彼らのために朝7時から開けている。練習前に立ち寄れるように。
「勇利が酷くてさあ」
ヴィクトルは毎日、来るたびに勇利の愚痴を言ってくる。愚痴、っていうと悪く聞こえるけど、だいたいはこんなんだ。
「マッカチンとは一緒に寝てるのに、俺とは一向に寝てくれないんだ……。コーチだよ?俺」
「勇利はパーソナルスペース広いからねえ」
「嘘だあ!初対面の時俺よりスキンシップ激しかったぞ」
「え?なにそれ詳しく」
肩をすくめるヴィクトルに食いつく勢いで聞き返す。あの勇利が?どういうこと?その話のお礼としてラテには豪華にハートとスワンを描いて渡した。
「ワオ、気合入ってる……!シャシン撮らなきゃ!いや、去年のグランプリファイナルのバンケットで勇利酔っ払ってみんなにダンスバトルなんてしかけちゃってね。しまいには俺に抱きついてBe my coach!だよ、まさかこんなシャイだとは思わないじゃないか」
写真をパシャりと1枚スマホで撮って、すぐにインスタにアップロードしながらヴィクトルはむくれて言った。Amazing……!勝生勇利に酒を与えてはいけないって誰もチェレスティーノに伝えていなかったのか?ダンスバトルって腹踊りやらかしたのか?勝生勇利が?
「めっっちゃ見たかった…………!!!!」
「怨嗟のような声だね。写真あるよ」
「Show me!」
うわうわうわ。え、動画もある。ブレイクダンス……だと……!?
「これ勇利絶対覚えてないよ」
「Really?」
「覚えてたら長谷津の海に飛び込んでるもの」
最近の、普通の勇利を知っているヴィクトルは、ちょっと考えてからThat's true.とうなだれてしまった。