第1章 デートの後で…
「鎌先くんは覚えてないかもしれないけど」
そう前置きしては、二人が初めて出会った時のことを話し始めた。
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―高校一年生、春―
入学してすぐの頃、私は初めて学校の購買にパンを買いに行った。クラスには女子生徒がほとんどいなかった。数少ない同じクラスの女子は、中学生の時からの友人同士だったらしく、二人で固まって早々と昼食を取っていた。
だから、一緒に購買に行こう、なんて声をかけられずに、私は一人で購買へと向かったのだけれど……。
購買の前には大勢の生徒の姿。それも男子生徒ばかり。
彼らの争奪戦に参加できる気概はその時の私には一ミリ足りともなく、遠巻きに購買の商品が次々と消えてゆくのを見守る事しか出来なかった。
「おい、買わねぇの?」
「えっ」
ふいに声をかけられて、そちらを向けば、金髪の怖そうな男子生徒が私を見ていた。胸元で光る名札のラインの色は、私と同じ一年生の色。名札から、彼が「鎌先」くんなのだと知る。
身長が高いせいもあって、同じ学年には思えなかったけれど、どうやら彼も新入生のようだ。
「早くしねぇと昼飯食いそびれるぞ」
「あ、うん……」
鎌先くんは私を一瞥すると、群がる男子生徒達の中へ突っ込んで行った。その姿は群れに突撃して獲物を狩る猛獣のようで、同じ一年生なのに男の子は違うなぁ、なんて感心してしまった。先輩達を押しのけて、目当ての品物を手にした鎌先くんは、もみくちゃにされたのだろう。
さっきまで綺麗だったネクタイが見事な皺をつけていた。
「あれ、まだ買ってねぇの?」
「う、うん……」
くしゃくしゃになった髪を整えながら、鎌先くんが再度私に問いかけてきた。鎌先くんのようにあの群れに突入する勇気は私にはない。かといって、声を張り上げても、その思いは購買のおばちゃんには届きそうになかった。
半ば昼食を諦めかけていた私に、鎌先くんは「仕方ねぇな」って顔で私に尋ねてきた。
「何買うの?」
「あんぱん、と、サンドイッチ」
「それだけ?」
「う、うん」
「…女子って小食なのな」
鎌先くんの言葉に、そうかな、と小さく返す。
すると彼はくるりと後ろを向いて大きな声でこう言ったのだ。
「おばちゃん!! あんぱんとサンドイッチ頂戴!!」