第1章 デートの後で…
はぐれそうになるの手を、鎌先は何も言わずにぎゅっと掴む。も無言で、ぎゅっと鎌先の手を握り返した。
お互い顔は見えない状況だったが、どちらも赤くなっているのは想像に難くなかった。からは鎌先の真っ赤な耳が見えていたので、彼がひどく照れているのがよく分かった。
「……これとか、どうだ?」
はふいに立ち止まった鎌先に、ぐい、と手をひかれた。ひかれるまま彼のそばに寄れば、ショーウィンドウが間近に迫る。
鎌先の指差す先にあったのは、ハート型のチョコレート。チョコは深紅のコーティングが施され、つやつやと美しい輝きを放っている。
チョコはその一粒だけ、箱に収められている。いくらか大きめに作られてはいるが、一粒だけ、というのはそう他には無く、また場所が百貨店であるだけに、はその値段が気になってしまった。
鎌先の言動から察するに、どうも彼は自分にチョコを買ってくれるつもりらしい。今日の出来事のお詫びのつもりなのかどうかはよく分からないが、あまり高いものを鎌先に買ってもらうのは、には気が引けることだった。
が鎌先に気付かれないようにちらりと値札を覗こうとすると、鎌先の体がそれを押しとどめた。
「…値段とか、気にしなくていいから」
「でも……」
「本当は俺が決めて渡した方がいいんだろうけど。でもせっかくあげるなら、が欲しいのがいいから」
「鎌先くん……ありがとう。その気持ちだけで、私十分嬉しい」
「お、おう、そうか……や、でも今日は特別な日だし。これでいいか?それとも他のやつがいいか?」
「…これがいい。鎌先くんが選んでくれたやつがいいな」
「そ、そうか、分かった」
鎌先がくれるのだったら、たとえコンビニで売ってる小さなチョコ一つでもは嬉しかっただろう。
けれど今日は、鎌先の言葉に甘えて特別なチョコレートを受け取ることにした。
それは、鎌先の気持ちを受け取るのとイコールになるような気が、にはしていたから。
チョコと同じ深紅の紙袋を受け取り、鎌先とは店外へと向かう。先ほどと同じように、鎌先の手はの手をしっかりと握っていた。