第1章 デートの後で…
しかし、一人先走って、勘違いとはいえ笹谷との恋路を邪魔しようと躍起になった自分を顧みれば、自分の言動の浅はかさが目について、鎌先は恥じ入ってしまった。
「…、その、」
鎌先はもう一度謝罪をしようと口を開きかけた。
けれどその途中で、今朝出がけに見たテレビの内容がふと頭に浮かんできた。
大きなテロップが画面いっぱいに表示されて、若い女子アナ達が嬉しそうにその言葉を何度も連呼していた。
『逆チョコ、こういう習慣がもっと浸透してもいいですよね!』
「逆チョコ」とはその言葉の通り、バレンタインに男性から女性へチョコを送る行為のことを指すのだと、朝のニュースで女子アナ達が伝えていた。
そうだ、これだ。今までの失態を打ち消す良い策になるに違いない。
鎌先は我ながらナイスアイディア! と心の中で自分に拍手を送った。
謝罪の言葉を一度飲み込んで、鎌先はにある提案を持ち掛けた。
「あ、あのさ、今日の放課後、時間あるか?」
「え、う、うん……」
「じゃあさ、俺と一緒に出かけねぇ?」
「…! うん、行く!」
あまりにも嬉しそうにが目を輝かせて笑顔を見せるのもだから、鎌先の口元も自然と緩んでしまっていた。傍から見ればニヤニヤとした実にしまりのない顔だっただろう。
二人の熱気にあてられそうになった笹谷は静かにその場から立ち去り、残された鎌先との二人は嬉しそうにお互いの顔を見つめ合うのだった。
「……ゆ、許せん……」
「鎌先、裏切りよって……!」
「先頭に立つものがあのような裏切りを……」
昨日、鎌先と共にバレンタイン反対運動を繰り広げていた者たちは、廊下の影から鎌先をねめつけていた。
******
放課後。
鎌先との二人は少しだけ距離を置きながら、連れ立って街中へと出かけて行った。
目的地を知らされずに鎌先の後をついていくだったが、鎌先と共に過ごせるのならどこへ行っても幸せだと思っていた。
電車に乗って連れられた先は、老舗の百貨店。
その地下階に設けられたバレンタインの特設会場に、鎌先は迷うことなく足を踏み入れた。
バレンタイン当日ということもあって、会場は混雑している。