第1章 デートの後で…
笹谷は、同い年だと言うのに鎌先よりも随分と落ち着いた人間だった。茂庭も鎌先に比べれば落ち着いているが、笹谷はそれに輪をかけて精神的に大人な雰囲気を持っていた。
鎌先と一緒に馬鹿をやって騒ぐことももちろんあったが、笹谷はどこか自分とは違うと鎌先は常々感じていた。
自分が同年代の異性からは距離を置かれる存在なのに対し、笹谷はその反対なのも薄々気付いていた。
笹谷の落ち着いた感じが安心感を与えるのか、女子からの人気はまずまずなことを、鎌先は知っていた。けれど今まで特定の誰かとどうこう、といった話を耳にしたことは無かったから、鎌先はどこかで笹谷に仲間意識を持っていた。
それが今、見事に裏切られた。
笹谷からすれば、裏切ったなんて実感はさらさら無かっただろう。勝手に鎌先が思い込んでいたに過ぎない。
けれど、目の前でまさに成就しようとしている一組のカップルを、そう易々と成立させてなるものかと鎌先が燃え立つのに、その裏切りは十分すぎる燃料になった。
なんとしても阻止すべし!と意気込んだ鎌先は、声を張り上げた。
「笹谷ー! こんの裏切り者ー!!」
「?!」
廊下中に響き渡ったその声に、笹谷もも驚いて固まってしまっていた。
驚き固まったの手から、可愛らしい赤い小さな箱が音を立てて床に落ちた。
―やっぱり、チョコ手渡すつもりだったんだ。
鎌先の視線はその赤い箱と達とに交互に注がれていた。床に落ちた拍子に、赤い箱からは中身がこぼれ落ちていた。丸やらハートやらの黒い物体が床に散らばり、中には無残にも形が崩れてしまったものもある。
それを見つめるの悲しそうな顔を見て、鎌先の胸はこれ以上ないほど苦しくなった。
―確かに阻止したいとは思ったけど、ここまでするつもりじゃ……。
何もチョコを駄目にするまで、邪魔をするつもりは鎌先には無かった。けれど実際、目の前で床に散らばってしまったチョコを見れば、謝る他無いだろう。
「……わ、悪い! ここまでするつもり無かった!」
「……鎌先、お前さぁ」
「悪い、笹谷! も、ごめん!」
「……」
勢いよく頭を下げた鎌先に、は何も言葉を返さない。ああもう蛇蝎の如く嫌われてしまったに違いない。