第1章 デートの後で…
それでも周囲のことなど全く気にせずに、鎌先くんはぶんぶんと腕を振って大声で私を叱咤激励してくれていた。
頑張れ、自分に負けるな。鎌先くんの言葉一つ一つが胸を打つ。
目頭が熱くなってきて、ぐっと唇を噛みしめる。
相手サーブ。笛の音がしたすぐ後に飛んできたボールは、狙いすましたかのように、私に真っ直ぐ向かってくる。
「、練習思い出せ!」
強張っていた体が、鎌先くんの大きな声でほぐれていくようだった。諦めずに、とことん練習に付き合ってくれた鎌先くんの姿が、頭に浮かんだ。
初めてボールに手が触れた時、自分の事のように喜んでくれた彼の笑顔が、私に力をくれたんだと思う。
「頑張れ!」
コートを囲む観衆も、コートの中のチームメイトさえ、誰も私がボールを拾うなんて思っていない状況で。
ただ鎌先くんだけが、私を信じて声の限り応援してくれている。
鎌先くんの声に応えるように、体が動いた。
わっと歓声が遠くの方で聞こえた気がした。私めがけて飛んできたボールは、ふわりと宙に浮いている。そこからはスローモーションのように映像が流れて、空に浮かんだボールをチームの子が相手コートに叩きつけた。
得点板の数字が変わった。こっちのチームにようやく点が入ったのだ。
チームの子達がみんな押し寄せてきて、私をぎゅっと抱きしめたり、頭を撫でたりした。
やったね、とか、すごい、とか。色んな賛辞を贈られて、どこかむずがゆい気持ちになった。
たった一球、ボールを上げただけ。それだけだったけれど、冷たかった周囲の視線が一気に温かいものに変わった。
そこからは、私の体も練習のように動くようになり、ほんとうに少しだけだけど、チームに貢献することが出来た。
けれど、結果は、負けだった。
自分のミスが大きな原因だと思い、試合が終わって私はみんなに頭を下げた。
だけど。責める人はいなかった。
逆に「頑張ってたね」、なんてねぎらいの言葉をかけてくれた子もいた。
もちろん、そう言ってもらったからといって、私のミスが消えるわけじゃないことは分かってる。だから言葉を額面通りに受け取るつもりはなかった。