第1章 デートの後で…
今までボールに触れることも出来なかったから、意図したところに当たっただけでも大きな進歩だった。
「ほら、やれば出来るんだって! もうちょっと練習すれば絶対ボール返せるようになるから!」
「うん!ありがとう!! 鎌先くん、本当にありがとう!!」
お礼を言うと、鎌先くんは後頭部を掻きながら恥ずかしそうに笑っていた。礼なんていいよ、なんて鎌先くんは言うけれど。鎌先くんがいなかったら、ここまで練習頑張れなかったと思うし、ボールに触れることもなかったと思う。
休み時間を潰してまで練習に付き合ってくれたことはもちろん嬉しかった。
そして、自分の事のように一緒になって喜んでくれたのも、とっても嬉しかった。
その後、球技大会まで鎌先くんは時々練習を手伝ってくれた。
劇的にうまくなることはなかったけれど、それでも前より随分マシな動きが出来るようになったと思う。
球技大会当日。
運動が苦手だと散々口にしていたからか、バレー参加者の名簿に名前は載っていたものの、控え選手の扱いで私は競技に参加せずにコートの外から声援を送っていた。
あんなに練習したのに無意味になったことは少し残念だったけれど、目の前で繰り広げられている熱い試合を見たら、参加せずに済んで良かったと思った。
バレー経験者がいるからか、ボールの勢いは想像していたよりもずっと早くて、見ているだけで体がすくんでしまう。
「、お前出ねぇの?」
したたる汗を体操服の襟元で拭いながら、私の隣にやって来た。鎌先くんは少し前にサッカーに参加していたはず。もう試合終わったのかな。
「うん、私控えなの」
「そうなのか……あんだけ練習したのにもったいねぇな」
「……でも、私が出ても足手まといになるし」
乾いた笑いが私と鎌先くんの間を流れていく。でも笑っているのは私だけだった。鎌先くんはどこか納得いかないような顔で、私を見ていた。
一緒に練習してくれた鎌先くんに対して失礼な発言だったかもしれない。「やれば出来る」鎌先くんはそう言ってくれたのに。
だからといって、試合に出たいと申し出る勇気は無かった。
コートで繰り広げられるラリーの応酬を、見つめるしか私には出来なかった。
けれど試合の途中でアクシデントが起きた。
チームの子が着地の時に足を捻ってしまったのだ。