第1章 デートの後で…
これ以上失態を鎌先くんに見られるのは恥ずかしかった。でも、折角のチャンスをみすみす逃すのももったいない気がして、恥を忍んで鎌先くんにコーチしてもらうことにした。
鎌先くんはバレー部なだけあって、とっても上手だった。
上手だったけど、その指導は擬音語がいっぱいで、感覚や気合で押し通す感じだった。
始めはその擬音語の意図するところがさっぱり分からなくて、ちょっと困ってしまった。見よう見真似でやってみるけれど、なかなかうまくいかない。
それでも鎌先くんは呆れたりせずに根気よく練習に付き合ってくれる。こっちが申し訳なるくらい、鎌先くんは熱心に練習に打ち込んでくれた。
「ごめんね、鎌先くん。こんなに熱心に教えてくれてるのに上達しなくて」
「んなことねぇよ。ちょっとずつだけど、動き良くなってきてるぞ」
「……ほんと?」
「嘘言ってどうするよ。……苦手だ! って意識が強すぎたんじゃねーか、今まで。体ガッチガチじゃ動けるもんも動けねぇし。今はいい具合に力抜けてきてると思うぜ」
鎌先くんなりのお世辞かな、なんて思ったけど。私を真っすぐ見つめる鎌先くんの目を見たら、それが本心なんだって思えるような瞳をしていた。
「そっかな…ありがとう。……鎌先くん、あとちょっと練習付き合ってもらってもいい?」
「おう、いいぜ」
「ありがとう」
緩やかに鎌先くんがボールをあげる。山なりになったボールの軌道を目で追いながら、落下地点に入り込む。
鎌先くんに教えてもらったように、慌てて動かずに、一度息を吸って体制を整える。ボールから目を離さずにおく。おでこの前で三角形のおにぎりの形を手で作って、ボールが来るのを待つ。
「今!」
鎌先くんの声に合わせて、腕を伸ばす。
指先に固いボールの感触がして、少し痛みが走った。ボールは山なりの軌道を描かずに地面に一直線に向かっていってしまったけれど、今まで顔面でボールを受けていた私にとって、大きな一歩だった。
地面を転がるボールから顔をあげて、鎌先くんと顔を見合わせる。一瞬の間の後、二人して歓喜の声をあげた。
「、お前今、ボール触ったぞ!」
「うん、うん!! やった!! すごい進歩!!」
ボールは鎌先くんの元に返らなかったし、軽い突き指みたいになったし、決して上手なオーバーハンドパスじゃなかったけれど。